10月4日、甲子園で行われた阪神の今季最終戦は3位争いを展開する広島の前に完敗という結果に終わりました。

 そんな屈辱的なムードを薄めたのが、試合後に行われた関本賢太郎選手の引退セレモニーでした。

 19年間もタテジマに身を包んだだけにファンの愛着もひとしお。関本本人もファンに対する感謝を口にし、子どもさんから花束をもらう場面には、思わずホロリとしてしまいました。

 シーズンも終わりになると引退選手が出て、こういう光景が展開されます。でも、こうやってセレモニーをやってもらえるのは、ごく一部。

 まったく戦力になれずに現役生活を終えていく選手は仕方がないとしても、かなりの貢献をしながらもタイミングなどが合わず、特段のセレモニーもなくやめていく選手は、少し気の毒にも思います。

 この日、試合前のベンチにスーツ姿であいさつに訪れていた細身の男がいました。

 今季限りで引退する渡辺亮投手です。

 プロ2年目の07年に53試合登板し、中継ぎとして定着。この年から6年間で5度、50試合の登板を果たすなど一時期のブルペンを支えた。十分、貢献したといってもいいでしょう。

 その渡辺で忘れられない出来事があります。

 渡辺の登場曲は虎党ならご存じのとおり、ザ・ハイロウズの「千年メダル」でした。ボーカルの甲本ヒロトは私も大好きですが、渡辺も同様なよう。

 あるとき、同じ甲本ヒロトの歌ながら「千年-」とは違う曲にしたことがあったのです。

 なぜか、その時期、渡辺はよく打たれました。体の開きが早く、シュート回転して打たれやすくなるという、よく投手が陥る状態になった様子。そのとき渡辺はぼそりと言ったものです。

 「曲名があかんのかもしれませんね…」

 バンド名はザ・クロマニヨンズに変わっていますがボーカルは同じ甲本ヒロトのその楽曲、「ひらきっぱなし」という曲名でした。

 そして渡辺は再び「千年メダル」に戻したのです。

 信じられないような、本当のこと。そんな話をしてくれる味のある選手が、また1人、いなくなるのは寂しくて仕方がありません。