あの手、この手にも乗らない。高校通算74本塁打の早実・清宮幸太郎内野手(2年)が、片倉の奇策にも動じず8強入りに貢献した。「3番一塁」で出場し、4打席で投法の違う3投手と対戦。第1打席は変則左腕の前に約1年ぶりの空振り三振も、3回の第3打席は押し出し四球を選んだ。5回の第4打席では右前打を放ち、1安打2四死球1打点。公式戦4試合連発はならなかったが、チームは5回コールド勝ちで来春センバツ出場に1歩前進した。29日の準々決勝は、4季連続の甲子園を狙う関東第一と戦う。

 清宮に「想定外」は存在しなかった。第1打席は外角へ逃げるスライダーに手を出して空振り三振。迎えた2回の第2打席、味方打線がKOして一塁に回っていた先発の横手投げ左腕・森田大翔投手(2年)がマウンドに戻ってきた。かつて阪神を率いた野村克也監督が繰り出した「遠山・葛西スペシャル」を思い起こさせる、プロでも珍しい継投策。球場はどよめいた。結果は死球も、清宮は一撃で仕留める準備をしていた。

 「ファーストに行った時に、また出てくると思った。変化球中心で来るだろうと思ったけど、内角の直球も(来ると)考えていた」

 事前情報がなくても関係ない。森田は今大会直前、清宮対策のために横手投げに転向した。1、2回戦でも登板のなかった「秘密兵器」だった。3回2死満塁の第3打席で対戦した上手投げ左腕も今大会初登板。1度もバットを振らずに押し出し四球を選んだ。「チーム方針の『選球眼』を自分から見せていかないと、(周りが)ついてこない。あれでいい」。打ち気満々でボール球を振らされた過去の姿は、もうなかった。

 数少ないチャンスボールは逃さなかった。5回無死一塁、6番手の軟投派右腕に4球続けられたカーブを右前へ運んだ。この日の2スイング目だった。今大会3試合目で初の本塁打以外の安打。「試合の中での落ち着きが変わってきた。トータルで見られるようになった」と、うなずいた。

 来春センバツ出場の当確ランプをともす頂点まで、あと3勝。「負けたら終わり。チーム(の状態)が落ちないように、主将として引っ張っていきたい」と力強く言った。和泉実監督(55)は「(片倉は)右投手2人と聞いていたけど、いろいろやってくるね」。視察した阪神畑山スカウトは「バットを振らせてもらえないから(球団に提出する)プロモーションビデオを作るのが大変」。大人たちが苦笑いするほどの厳しいマークをはねのけ、清宮が甲子園への道を突き進む。【鹿野雄太】

 ◆早実・清宮のセンバツへの道 秋季東京大会で優勝すれば、翌春のセンバツ出場は確実だ。関東・東京地区の出場枠は「6」。東京大会優勝校と関東大会4強の計5校は決定的となる。激戦の6枠目は例年、東京大会準優勝校と関東大会8強校の中で争われる。

 ◆「遠山・葛西スペシャル」 阪神野村克也監督(当時)が、99年と00年のシーズンで繰り出した継投策。対左打者の場面で登板した左腕の遠山が、対右打者では一塁の守備へ。マウンドに右横手投げの葛西を送った。最低打者1人と対戦後、再び左打者との対戦になれば遠山が登板。葛西は一塁の守備に就いた。

<他校の清宮対策>

 ▼昭和 今春の東京大会2回戦で、165センチ左腕の田舎(いなか)が徹底的な外角攻め。森勇二監督が考案した「単打はOKなのだ」という「天才バカボンパパ作戦」が的中して勝利。

 ▼国士舘 今夏の西東京大会5回戦で、全球ボール球での勝負を計画。3回の第2打席、ストライクゾーンに入った失投を右中間席に運ばれて敗退した。

 ▼八王子学園八王子 今夏の西東京大会準々決勝で対戦。初回と5回に、走者二塁の場面で敬遠気味に歩かせた。本塁打が出れば同点の9回1死一、三塁では勝負を挑み、右犠飛に仕留めて勝利。

 ▼日本学園 今秋の東京大会2回戦で、極端な「清宮シフト」を実行。左翼手はバックスクリーン下、中堅手は右中間、右翼手はライト線を守った。両翼98メートルのフェンスぎりぎりに立ったが、4回に右翼手の頭上を越える1発を浴びた。