<センバツ高校野球:興南10-5日大三>◇3日◇決勝

 悲運のエースが、春の日本一に輝いた。トルネード左腕、島袋洋奨投手(3年)擁する興南(沖縄)が、延長12回の末、10-5で日大三(東京)を破り、初優勝を飾った。島袋は198球を投げ抜き、8安打11奪三振で、大会通算49三振とした。打っても2安打4打点と活躍。興南・我如古(がねこ)盛次主将(3年)と日大三のエース左腕、山崎福也(さちや)投手(3年)はともに大会タイとなる通算13安打をマーク。

 「沖縄のトルネード」こと島袋が、頂点に立った。センバツ決勝としては21年ぶりの延長を制した。延長12回、198球を投げきった左腕は「今日も気持ちよく投げられました。疲れは全く感じませんでした」と笑った。

 最高の舞台で最高に楽しんだ。2回は自らのけん制悪送球で2失点。「自分でも記憶がない」という1試合2本塁打を浴びて6回までに5失点。だが7回以降は立ち直り、許した安打は12回の二塁打1本だけ。5失策にも崩れることなく投げきった。「今日は心でカバーしましたね。ミスにも心は折れなかった」と、我喜屋監督からもお褒めの言葉をもらった。

 「沖縄が力があるところを見せたかった」。小さいときから沖縄が抱える痛みを肌で感じて育ってきた。自宅は移設問題で揺れる普天間基地の近く。小6のとき、近所で米軍ヘリ墜落炎上事故が起こった。炎上したヘリの破片は自宅アパート前にも飛んできたという。児童会長だったため、宜野湾市内で開催された市民集会で1万人を超える参加者の前でスピーチをした。「安心して生活できる環境になってほしい」。切なる願いを訴えた少年は6年後、県民を沸かせるエースへと成長。不安を抱える地元の人へ頑張る姿を届けた。

 昨年センバツは延長10回19奪三振も負け、昨夏も打線の援護なく明豊(大分)に敗れた。そんな「悲運のエース」が、5試合689球で「幸せ」をつかんだ。2年ぶりに優勝旗を沖縄へ持ち帰る。「夏また戻ってきて、みんなで1勝から始めます」。大昭和製紙北海道の選手として74年都市対抗野球を制し、「南北」で歓喜を味わった我喜屋監督は「ベンチ、お客さん、沖縄みんなの総合力だと思う」と感謝した。沖縄球児の悲願である夏の優勝へ。さらに成長したトルネードが夏、もっと大きな嵐を巻き起こす。【前田泰子】