<中日5-0阪神>◇3日◇ナゴヤドーム

 オレ竜の誇る強力クリーンアップ「BMW」が首位阪神を粉砕した。5番和田一浩外野手(37)のタイムリーで先制すると3番森野将彦内野手(32)が貴重な追加点をたたき出し、最後は4番トニ・ブランコ内野手(29)がだめ押し打を放った。特に森野はリーグ断トツの52安打でイチロー(マリナーズ)がオリックス時代の94年に樹立した年間最多安打記録(210安打)を超える220安打ペースで量産中。負ければ借金生活転落のピンチを、頼れる男が救った。

 森野の本能が反応した。2-0とリードした5回1死二塁、阪神先発下柳の初球だった。内角シュート。コンパクトなスイングでとらえた打球は鋭いライナーで右翼線へ伸びた。勝敗の行方を大きく左右する3点目をたたき出した。

 「チャンスをもらいましたから。前の打席で初球を簡単に打ち上げてしまいましたけど、だからと言って(次の打席で)初球を見逃すわけにはいかない」

 驚異の得点圏打率5割、そしてリーグ断トツの52安打という好調の秘訣(ひけつ)が垣間見えた。森野は直前の打席だった3回1死二塁で、同じく初球シュートをミスショットして三邪飛にたおれた。2度目のチャンスでは慎重になりがちな場面だが、迷いはなかった。

 「僕の場合、最も大事にするのは本能です。たくさんのデータがありますけどその時、その人によって状況は違う。9対1の割合で本能です。考えすぎるのが1番よくない」

 本能とデータ。どちらも戦いに欠かせない要素だが、森野はその割合が極端だ。例えば、下柳は昨季の対戦打率が1割8分2厘という苦手な相手だが、そのデータはまったく頭にない。考えすぎてスランプが続くことも、チャンスで積極性を失うこともない。ひたすら自分のスイングを保つことに集中していることが好成績に表れているという。

 この日の試合直前、グラウンドに出た森野はスタンドを見渡した。連休中に野球を観にきた子供たちの輝く笑顔が目に留まった。急きょ、球団関係者を呼ぶと話し合いを持った。「せっかくだから、何かできないかなと思ったんです」。5月5日「子供の日」に子供が大好きなアニメや戦隊もののテーマ曲を流す-。選手会長の本能が即席ファンサービスを決めた。

 驚異のパワーを誇るブランコ、確実性と長打力を兼ね備えた和田、いずれ劣らぬ強打者と形成する「BMW」は満員のファンに喜びを与えた。そして、森野がこのままのペースでヒットを打ち続ければ、94年にイチローが樹立した年間210安打を上回る220安打に…。「無理です!」。そう言って苦笑いした森野だが、その1本、1本が、大きな夢へとつながっていく。【鈴木忠平】

 [2010年5月4日11時17分

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