<横浜4-5楽天>◇5日◇横浜

 「楽天のアリ」が横浜を逆転KOだ。楽天の新外国人、ランディー・ルイーズ内野手(32=ブルージェイズ)が、1点を追う9回無死一塁に代打で登場し、来日1号の左越え2ランを放った。元世界ヘビー級王者のボクサー、ムハマド・アリ似のメジャーリーガーが放った150メートル場外アーチで逆転勝ちし、楽天が08年6月以来2年ぶりの交流戦単独首位に立った。

 ハマスタが四角いジャングルと化した。1点差で楽天敗色濃厚の9回無死一塁。三塁“コーナー”から、代打ルイーズが現れた。相手は横浜の剛腕・山口。「こういう機会を与えてくれた監督に感謝する」と腹をくくったルイーズがぬらりと間合いを取り、ハードパンチャー同士の対戦はゴングが鳴った。

 秒殺の初球打ちだった。山口は自慢の直球でなく、真ん中低めへのスライダーを選択。ジャブから入った相手に対し、程よく脇を絞った右腕を素早く、レベルに出した。来日後、ブラウン監督から「もっと右脇を絞って、最短で速く反応しろ」と猛指導を受けていた。トレーナーの教え通り繰り出した右ストレートでボールをハチのように刺した。乾いたKO音を残した逆転2ランが、リング外へと消えた。「日本1号がこんな形で。興奮してる」。チョウのように舞いながら生還したムハマド・アリ似のファイターが、ロープ際のチームを救った。

 グロッギー寸前だった。ピュアで実直なバリバリのメジャーリーガー。デビュー戦は2安打も、精度の高い日本人投手の変化球に手を焼き「プラス思考で、と思っていた」が、しょぼんとしていた。先輩山崎からもらった「打てないからって、ウジウジすんな!

 日本野球は、そんなに甘くないんだ」のカミナリは即効性十分で、「これ使って元気出せ!」ともらった赤いリストバンドで練習に励んだ。試合では自らの白い“バンデージ”着用で結果を出したが、陰の殊勲者山崎は「3日洗ってなかったから、くさかったんだろ。オレ、ノリ、ルイーズで長打を打っていくよ」と大笑いだ。

 KO弾にはオチがあった。球場に隣接する公園はバザーの真っ最中。左翼看板「ありあけのハーバー」を越えると、公園の木→お好み焼き店の屋根と跳ね返り、最後は「社団法人・神奈川繊維協会」が出店していたブラジャーのワゴンセールに飛び込んだ。舞ったのはギブアップの白いタオル…、ではなく、交流戦首位祝いのカラフルなランジェリーだった。すっかり風格を取り戻したルイーズは「次の試合も気合入れていく」。神奈川銘菓「鳩サブレー」を右手に勝利のバスへ乗り込んだ。【宮下敬至】

 [2010年6月6日7時33分

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