<巨人6-2広島>◇14日◇東京ドーム

 チームの逆境を救ったのは、主将の1発だった。巨人阿部慎之助捕手(32)が、2点を追う5回裏に右翼席へ逆転の13号3ランを放った。リーグ2位の11勝を挙げる広島バリントンから放った価値ある1発は、前日13日広島戦の同点弾に続き、2試合連続での殊勲弾。13本のうち9本が“肩書弾”と勝負強さを発揮している。チームは7連勝の後に連敗を喫したが、連勝で再び借金を返済。上昇モードとともに、明日16日からの4位中日との一戦に臨む。

 自分が発した声に驚いた。「いけー!」。一塁ベースへ走りながら、阿部は叫んでいた。打球がスタンドに入ったことを見届け、右手で力強くガッツポーズ。「いくと思わなかったですが、思わず僕も『いけー!』と言っちゃいました」。数々の放物線を描いてきたが、自然と言葉が漏れた裏には理由があった。

 前日13日の広島戦。同点弾を放ち、チームも勝ったが、阿部の表情は暗かった。「東野に勝ち星をつけてあげたかった」。女房役としての悔しさが、そうさせていた。この日、5回2失点で降板した西村が5勝目。逆転弾が出なければ、勝ち星がつかなかった。「(西村に白星がつき)うれしかったし、あいつも、もっとしっかりしなくちゃいけないと思ってくれるでしょう」。この時ばかりは少しだけ表情を緩めた。

 主将の言葉には、選手を勇気づける“魔法”が宿る。勝てない日々が続いた沢村もその影響を受けた1人だった。ある登板後、トレーナー室で落ち込む沢村に、阿部は言った。

 阿部

 悪いな。お前の時は打てなくて。でも、次こそ援護するから。頑張れ。

 苦しむ後輩へ愛情を込めたメッセージ。それはプレーでも同じだった。プロ11年目を迎え、名実ともに日本を代表する捕手だが、余計なプライドは捨てた。巨人には意図的に首を振るサインがあるが、それを自ら出す。故意とはいえ、捕手として自分が出したサインに首を振られることは、気持ち良くはないが「それでもいいんです。勝てればいいですから」と意に介さず。「オレに気を使わず、投げたいボールを投げてくれればいいって言ってるんです」。心を支配するのは、勝利への思いだけだった。

 チームは連勝で再び借金返済。試合後、阿部は静かな口調ながら、熱のこもった言葉で締めた。「みなさん報道してますが、僕らは借金1とか2とか気にしてない。とにかく今なんです。その日、その日の試合を頑張るしかないですから」。背中まで土がついたユニホームが、言葉の全てを物語っていた。原監督は「チームとして逆境の中で、動き始めている。少し手応えを感じています」と評価。「もよおしてきた」チームが、真の実力を発揮し始めた。【久保賢吾】