<DeNA12-10巨人>◇10日◇横浜

 DeNAに勝利を運んだのは、“出戻り”の多村仁志外野手(36)だった。1点を追う9回裏1死一、二塁。巨人のストッパー西村から、右翼スタンドへ飛び込む逆転サヨナラ3号3ランを放った。多村は7回にも代打で2号2ランを放っており、1軍昇格した日に3安打5打点の大活躍だった。7年ぶりに古巣に復帰した男が、最高の仕事をやってのけた。

 多村らしい、逆方向への逆転サヨナラ3ランだった。1点差の9回1死一、二塁。巨人西村の直球を、強くコンタクトした。1ボールから直球が2球続いた。打席で「速いなぁ。振り遅れてる」と驚いた。「ホームランは狙っていなかった。つないでくれたので、ランナーをかえそう」との謙虚な気持ちになった。また直球がきた。「打った瞬間いくと思った」。3度も振り遅れるほど、スラッガーはさびついていなかった。

 DeNA反撃ののろしも、この男だった。7回無死一塁、代打で2号2ラン。左太ももの違和感が回復して、この日昇格したばかりだった。「急に『多村、いくよ!』って言われて。『おぉ、きたか。よしっ』って。初球から」と左翼上段に放り込んだ。横須賀の2軍練習場では「懐かしくって。海がきれいでね」と少し感傷に浸りながら「ずっといい状態をキープして」お呼びが掛かるのを待ち焦がれていた。

 7年ぶりに古巣に戻った。もみくちゃにされて、少年の笑顔だった。多村には、若かりしころ大好きだった歌がある。灰田勝彦の「野球小僧」。灰田氏は昭和初期の大歌手で、観戦したミスターとも親交が深かった。10年ほど前、野球をプレーする喜びを歌った名曲の歌詞にほれ込んで、よく聞いた。「野球小僧がなぜくさる

 泣くな野球の神様も

 たまにゃ三振、エラーもする

 ゲーム捨てるな頑張ろう…」。特に調子が上がらない時に自分を重ねて元気をもらった。

 歌詞そのままの試合で巨人に勝てた。ハマスタのファンがこよなく愛した逆方向への放物線で、多村自身の記憶も鮮やかによみがえった。「プロ初どころか、サヨナラホームランは人生でも記憶にない。オレ、今日は野球小僧になれたね。やっぱり野球は楽しい。グラウンドに立ってプレーするって、最高に楽しい」と言った。笑いじわに年輪を感じさせて、野球小僧が帰ってきた。【宮下敬至】