<楽天3-2日本ハム>◇6日◇Kスタ宮城

 もう、誰にも止められない。楽天田中将大投手(24)が日本ハム戦で今季7度目の完投勝利を挙げて開幕20連勝を飾り、「鉄腕」と呼ばれた西鉄(現西武)の稲尾和久が57年にマークした同一シーズン20連勝のプロ野球記録に並んだ。日本ハムの注目ルーキー大谷翔平投手(19)と初の投げ合いで、4回までに2点リードを許したが、味方打線が逆転し、勝利に導いた。08年岩隈(楽天)以来となる20勝投手が誕生した。チームは2連勝で、貯金は今季最多タイの20。優勝マジックを2つ減らし「20」とした。

 最後まで、田中は冷静だった。3-2の9回2死三塁。一打同点のピンチ。日本ハム佐藤に対し、カウント2-2からの5球目だった。154キロが内角ボールでフルカウント。ここで、一息入れた。プレート板を外し、上半身で軽くシャドー投球。「ただ勢いで投げるだけではダメ」とバランスを再確認した。6球目。スプリットは少し高かったが、外に決まって見逃し三振。右の拳を力いっぱい握って喜んだ。

 冷静だったから、流れを取り戻せた。二刀流ルーキー大谷との投げ合いには「何も(意識は)なかった」。いつも通り臨んだが、序盤は制球がやや乱れ、2点リードを許す。球数も4回までに67球と多かった。転機は5回だった。1死から西川に右前打を打たれ「流れが悪かったし、相手もいろいろ考えてきていた。調子に乗らせても面白くない。刺しにいきました」と、一塁に2度けん制した。さらに3度目。素早いターンで、西川を刺した。

 風向きが変わった。その裏、藤田が同点打を放ち、6回に松井が勝ち越しソロ。田中は「先輩たちに引っ張られて、良いリズムになりました」と感謝した。5回から8回までの4イニングでわずか39球。テンポよく投げ、けん制で引き戻した流れを手放さなかった。

 開幕から積み上げた白星は、ついに「20」の大台に達した。高まる一方の注目度に「窮屈さを感じてきているけど、やるのは自分。(不調だった)WBCから始まってこうなるとは、誰も想像しなかったでしょう」と言った。やるべきことをやった結果だった。稲尾氏に並ぶ1シーズン20連勝のとんでもない数字にも「今はいいでしょう」と感慨は見せなかった。

 2年前もそうだった。19勝で沢村賞に輝いた11年。18勝目を挙げた後、首脳陣から2つの選択肢を提示された。中6日の西武戦か、中7日の日本ハム戦。前者なら、19勝目の後、中3日でシーズン最終戦に中継ぎ待機が可能だった。状況に応じて、20勝目を取らせようというベンチの親心。だが、田中は後者を選んだ。19勝目を挙げ、自身のシーズンを終えた。「そこまで無理してというのはなかった。(20勝に挑む気は)全くなかった」と振り返った。

 記録のための記録に興味はない。お立ち台では「本当に欲しいものは優勝です。そこに向かって1つ1つ頑張っていきます」と声を張り上げた。記録よりも、ファンを喜ばせるものを知っている。球団史上最多2万2316人が集まったKスタ宮城で、心から誓った。【古川真弥】

 ▼田中が開幕から20連勝、昨年8月26日日本ハム戦からの連勝は24に伸ばした。1シーズンで20連勝は57年7月18日大映戦~10月1日毎日戦の稲尾(西鉄)に並ぶ記録となり、シーズン連勝、開幕連勝、シーズンをまたいだ連勝と、プロ野球の連勝記録すべてに名前を残した。20勝を記録したのは08年岩隈(楽天=21勝4敗)以来だが、田中は登板23試合目で20勝0敗。これまで20勝到達時に敗戦数が少ないのは58年金田(国鉄)の2敗で、登板数が少ないのは37年春沢村(巨人)の24試合目(20勝3敗)。0敗(20連勝)だけでなく、登板23試合で20勝も沢村を抜く最速記録となった。

 ◆大リーグの連勝記録はいずれも殿堂入りしたジャイアンツ勢が記録。シーズン連勝「19」は1888年にキーフ、1912年のマーカードは開幕から記録。2シーズンにまたがる連勝記録「24」は、ハッベルが36~37年にかけてマークした。