<阪神2-3巨人>◇23日◇甲子園

 神様は意地悪だ。こんなに頑張った阪神ルーキー梅野隆太郎捕手(23)に試練を与えるなんて…。同点の9回2死満塁、能見篤史投手(35)のフォークがワンバウンドの暴投になり、痛恨の決勝点を献上した。恐れず低め変化球を要求した捕手梅野だが、わずかなほころびが明暗を分けた。G3連倒を逃し、首位巨人に0・5ゲーム差接近に失敗。負けて勉強、泣くな梅ちゃん-。

 梅野が体を投げ出した。同点の9回2死満塁、代打矢野への初球だった。能見のフォークが地面に弾んだ。必死に止めにいったが、無情にも白球は左後方へ。三塁走者鈴木が軽やかにホームを駆け抜けた。暴投での幕切れ…。本拠地での巨人3連倒も、能見の白星もするりと逃げていった。猛虎の若き司令塔は思わず天を仰いだ。

 「組み立てに関しては…。特にないですね…」

 試合後、どんな時でも前を向いてきた梅野も、さすがに視線は落ちたままだった。強気な新人が初めて見せる、ショックにうちひしがれた姿だった。

 巨人との壮絶な我慢比べだった。9回無死からヒットを許すと相手は切り札・鈴木を代走に送ってきた。1点をめぐる死闘の幕が開いた。1死からスタートした鈴木に対し、梅野はワンバウンドを捕球して二塁へ。タイミングはアウトだったが、上本のタッチをかいくぐられた。さらに暴投で三塁へ進まれた。

 1球でもそらせば、敗北に直結する。そんな状況で梅野も、阪神ベンチもひるまなかった。能見の決め球であるフォークを要求した。低めへ、低めへと慎重になる左腕。それを背水の覚悟で止め続けた。そして、このイニング24球目、三塁に走者を背負ってから、じつに6度目のワンバウンドが無情の1球となった。

 この敗戦をどうとらえるか。山田バッテリーコーチの言葉が全てだった。

 「満塁で粘って、粘って。ああいう粘りが今後に生きてくる。能見には謝った。投手には悪いけど、よくやったと思う」

 暴投で1点を失った後も能見と梅野のバッテリーは集中していた。矢野に細心の配球で四球を与え、再び満塁とした後も、最後は片岡を中飛に打ち取った。KOパンチを許さなかった。そこにコーチとして手ごたえがあった。

 ナイターが終わった後、2人はいつも1日の配球を復習してから家路につく。そして翌日へと向かう合言葉は「失敗をひきずるな」-。若き司令塔と熱血漢はここまでそうやって戦ってきた。巨人と1・5差での首位攻防。満員の甲子園で、1点を争う9回に、ぎりぎりの戦いを繰り広げた。最後は前のめりに倒れた。これから、さらなる修羅場に挑む若者が得た“糧”だった。この日の悔しさが梅野をさらに大きくする。阪神ベンチはそう信じている。【鈴木忠平】