王者山中慎介(33=帝拳)が、国内歴代2位タイの11度目の防衛に成功した。昨年9月のV9戦で苦しめられた同級1位アンセルモ・モレノ(パナマ)と対戦。4回までに1度ずつダウンを奪い合う激しい展開も、7回1分9秒、得意の左でこの試合4度目のダウンを奪ったところでレフェリーが試合を止めた。KO負け経験のない最強挑戦者を豪快に退け、戦績を26勝(18KO)2分けとした。

 これが山中だ。6回に2度目のダウンを奪って迎えた7回だった。小刻みなステップから間合いを詰めると、WBA王座を12度防衛したモレノの鉄壁のガードをこじ開けるように、左ストレートをねじ込んだ。3度目。どうにか立ち上がるも、一気に仕留めにいった。さらに間合いを詰めて連打。最後は再び左で顎を打ち抜き、豪快に、因縁の相手との決着をつけた。

 熱狂に包まれる会場のど真ん中で拳を突き上げると「最高です。きれいに倒れているモレノの姿を見て、本当に気持ちが良かった」。待ち焦がれたKOの味をこれでもかとかみしめた。

 信じたのは、原点の左だった。初回にダウンを奪うも、4回には右フックの打ち終わりにカウンターの右を合わされ、ダウン。5回にも再びぐらつかされるピンチを迎えたが、セコンドの指示が大きく流れを変えた。「シンプルにワンツーで行け」。目が覚めた。

 昨年9月のモレノとの初戦。KOを連発してきた左を完全に封じられ、この試合を境に防衛ロードの勢いが止まった。続くV10戦でも不発。かねて熱望してきた海外進出、統一戦の話も自然と消え、衰えを指摘する声さえ出た。モレノとの再戦が決まると、デビュー当時からタッグを組む大和トレーナーと取り組んだのが「左の復活」だった。

 右を強化してきた影響で、左ストレートが内に巻き込むような軌道になり、威力が半減していた。同トレーナーは「人さし指の骨の付け根一点で打つ山中のパンチが、拳全体、面で捉えるようになっていた」と分析。練習では、ミットを拳1つ外に構え、構えた位置から真っすぐに手が伸びるように矯正した。「戻ってきた」。2人が声をそろえたのは試合2週間前。手応え十分に、控室に戻ると「ずっと信じてきたパンチ。勇気を持って打ち込めた」と力を込めた。

 苦しみ抜いた1年も、心は決して折れなかった。「僕は、ボクシングでは弱気な言葉、後ろ向きな言葉を口にしないと決めているんです。1度でもそれをしてしまうと、これ以上強くなれなくなるし、実力が落ちていく気がするんです」。

 来月で34歳を迎えるが、圧倒的なKO劇であらためて健在ぶりを証明。具志堅の防衛記録(13回)もはっきりと視界に捉える、鮮やかなV11を果たした。山中が、絶対王者の貫禄を示した。【奥山将志】

 ◆山中慎介(やまなか・しんすけ)1982年(昭57)10月11日、滋賀・湖南市生まれ。南京都高1年でボクシングを始め、3年時の国体で優勝。専大ボクシング部で主将。06年1月プロデビュー。10年6月に日本バンタム級王座、11年11月にWBC世界バンタム級王座獲得。家族は妻沙也乃さん(31)と長男豪祐君(2)長女梨理乃ちゃん(1)。身長171センチの左ボクサーファイター。