横綱白鵬(30=宮城野)が大関稀勢の里(29)をはたき込みで下し、唯一の全勝を守った。前日10日目の栃煌山戦では2度の猫だましを見せて協会幹部から批判の声が出たが、影響を感じさせない相撲で11連勝とした。

 奇策を繰り出した前日から一転、白鵬が厳しさを前面に出した。立ち合いで左から張りながら、右でかちあげる。稀勢の里のいなしに一瞬よろめくが、すぐに体勢を立て直し、最後は右の張り手から素早くはたき込んだ。「考えて出るもんじゃない。日ごろの(鍛錬)が次々に出ますから」。宿敵撃破での全勝キープに、満足そうにうなずいた。

 横綱では前代未聞の猫だましを使って勝った10日目栃煌山戦からの一夜明け。師匠の宮城野親方(元前頭竹葉山)は「あんなことしたら相手をバカにしてると思われる」と頭を抱え、土俵入りでは観客から「横綱らしい相撲を取れよ」と声が飛んだ。取組前は「猫だまし!」と叫ぶファンもいた。だが、そんな周囲の騒々しさも影響なし。心が揺れることはなかった。

 むしろ、朝稽古から心は弾んでいた。奇襲を振り返り「ある意味、棒立ちだから。心の面では成長したかな」とニヤリ。「勝つとかどうかより、そういう名前の技があるなら、本当に効くのか、効かないのか試したかった」と明かした。さらに「楽しみにしている人が1人2人いるはずだから。また、いつか」と、将来的な再現も示唆。「やぐら投げと猫だまし。今場所は記録じゃなく記憶に残るでしょうね」と悦に入った。

 稀勢の里戦の直前も、心は穏やかだったという。「いつもより気合が入ってなかった。楽しんでますから。こんな気持ち、初めてですけど」。横綱として初の休場明け場所も、残りは4日。未体験の境地でも強さは変わらず、終盤戦を迎える。【木村有三】

 ◆白鵬の猫だましVTR 10日目の栃煌山戦。白鵬は立ち合い直後に相手の顔の前で両手をパチン。そのまま左に動くと、振り向いた相手の前で、またも手をたたく。直後に右四つになって寄り切った。場内からは痛烈なヤジが飛び、北の湖理事長(元横綱)は「横綱としてやるべきことじゃない。前代未聞じゃないの。負けてたら横綱として笑いもの」などと批判した。