今年の世相を1字で表す「今年の漢字」は「安」に決まり、日本漢字検定協会が発表した。日刊スポーツ新聞社では、ウェブ限定連載「おすもうさんの今年の漢字」で、相撲界の関取衆に挙げてもらった今年の漢字を紹介します。1回目は、関取最年長37歳の安美錦です。

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 冬巡業の最終日。沖縄の地で、知性派の幕内安美錦(伊勢ケ浜)は今年を象徴する漢字1文字を「『偽』じゃない? 五輪エンブレムに始まって、国立競技場、この間はミスチルの曲についても(報道に)出てたよね」と、ひょうひょうと語った。

 確かに、社会的にはそうかもしれない。だがここは、自身の1年間を振り返って1文字を決めてもらいたい! たまたま鳴った携帯電話の電話口で絵莉夫人に相談すると「ひらがなでいいんじゃない?」との返答。これは相撲同様、華麗にかわされるかもしれない…。その瞬間、スラスラと色紙に書き始めた。

ムッとした表情の幕内安美錦(2015年12月13日、沖縄県立武道館)
ムッとした表情の幕内安美錦(2015年12月13日、沖縄県立武道館)

 選んだ漢字は「帰」。理由を「早く家に帰りたい。でも帰れない」と答えた。巡業後も部屋の沖縄合宿に合流。気持ちは分かる。だが、それだけではなかった。

 「ケガをしても、よく帰って来られたのと、来年は新年から(幕内)上位に帰って来られた。『返』り三役はならないかもしれないけど、来年は(下位に)帰らなくていいように、居続けたいね」。

 好調だった春場所では、10日目に右膝を負傷し途中休場。懸命のリハビリで夏場所から復帰し、九州場所では西前頭3枚目で勝ち越した。名古屋場所後に旭天鵬(41=現大島親方)と若の里(39=現西岩親方)が引退し関取最年長にもなったが、業師は健在だ。「原点回帰の『帰』でもあるね」と、細い目をさらに細くした。

 「帰」を連呼した後、最後にこう付け加えた。「でも早く帰りたいのは本当。めちゃくちゃ怒ってる」。色紙を持つ表情は、その怒りを表現しているとか、いないとか。【桑原亮】