大関琴奨菊(31=佐渡ケ嶽)が第1の横綱を突破した。最初の横綱戦となった鶴竜を寄り切り。自身初の初日から10連勝を飾った。横綱白鵬も魁聖を上手投げで退けて、今日11日目は両者の全勝対決。琴奨菊が勝てば、06年初場所の栃東以来、10年も遠ざかる日本出身力士の優勝に前進する。

 5秒間。琴奨菊はがぶり続けた。張って左を差した後、がむしゃらに前に出て、鶴竜に俵を背負わせた。そこで粘られても前進をやめなかった。前に、ひたすら前に。横綱に何の反撃も許さなかった。「しっかり準備して、やるべきことがやれた。満足しています」。幕内65場所目で、初めて無傷の10連勝を飾った。

 朝。今場所初めて稽古場に下りなかった。1番1番、出し切ってきたことによる疲れがたまった。師匠の佐渡ケ嶽親方(元関脇琴ノ若)に「上で休め」と勧められた。稽古しないことに不安がなくはない。だが「自分で後悔しないように」と体調を優先した。今までにしてきたことを信じて。

 正月。初めて2日を始動日に選んだ。「今までは世間の流れと一緒だった。正月休みがあって…」。年末は大みそかまで、あいさつ回りが続いた。従来であれば、休みを求めてもおかしくない。「逃げる道はいっぱいある。正月だからと。でも、逃げずにやってきたことが、つながっている。結構、相撲と向き合えた正月だった。場所後は自分で決めたことがあるから」。

 結婚式。場所後に、妻祐未さんとの一大イベントが控える。祐未さんは昨年、フードマイスターの資格を取ってくれた。食卓には10品ほどの食事が並ぶ。チンジャオロースーや、カボチャのスープ…。結婚式の準備をしながら、栄養を考えてくれる。師匠が言う。「負ければ嫁のことも言われる。昨年名古屋場所がいい経験だったと思う。かど番で苦しい思いをした。苦しい思いをすると嫁もつらい。そういう思いをさせたくないというのが、奨菊を変えたんじゃないのかな」。

 大一番。今日11日目、白鵬と全勝同士で対決する。気負いはない。「自分を信じて、しっかり準備して、対策を練って、やるべきことをやって…」。出る言葉は変わらない。ブレない琴奨菊がいる。【今村健人】