東前頭筆頭の琴勇輝(24=佐渡ケ嶽)が、涙の初金星を挙げた。2度目の対戦となった横綱日馬富士(31=伊勢ケ浜)を押し出し。懸賞を受け取るときから、目頭が熱くなった。「頭が真っ白になって覚えていないですけど、すごくうれしかったです。まだ何かフワフワしているというか、よく分からない感じ」と夢見心地。そして、つらく苦しい時期を思い起こした。

 13年九州場所6日目の取組で大けがを負った。左膝の蓋腱(しつがいけん)を断裂し、前十字靱帯(じんたい)を損傷した。医者からは「相撲を取るのは無理かもしれない」とも言われた。つらく、苦しい旅路の始まりだった。

 同年11月末に手術し、クリスマスも正月も、病室で過ごした。テレビで最初、相撲を見られなかった。「つらかったです」。

 だが、当時は部屋の琴欧洲と琴奨菊もけがを抱えながら相撲を取っていた。師匠の佐渡ケ嶽親方(元関脇琴ノ若)に「あの2人も大けがをして、本当は休んでもおかしくないのに相撲を取っているんだ。勇輝のために、土俵からエールを送っているんだぞ。相撲は見られないかも知れないけど、お前へのメッセージを送っているんだぞ」と励まされた。胸に響いた。「そこから、テレビで相撲を見るようになりました」。

 病院では懸命のリハビリに励んだ。初めは立つことも、座ることもできない。「泣きながらやりました」。リハビリ室で、土俵に戻るために懸命に取り組む。その隣には「自分の脚で、人生で1度でも立てるかどうかに挑戦している人がいた。その人たちが僕に『頑張って』と言ってくれるんです」。弱音を吐くわけにはいかなかった。

 多くの人たちが、土俵への復帰を後押ししてくれた。その後押しがあってこそ、つかんだ初金星。「やる気も底をついて、気持ちも上がってこない時期もありましたが、たくさんの人に支えてもらって、自分以上にあきらめないで待ってくれる人がいたから、もう1度、頑張ろうと思えた。その人たちと一緒につかんだ金星でした」。涙をふいて、深く感謝した。