綱とりに挑む大関琴奨菊(32=佐渡ケ嶽)に土がついた。東前頭2枚目の隠岐の海を押し込むも、土俵際で逆転のはたき込みを食らう。物言いがついたが軍配通り、隠岐の海の勝ちとなった。綱とりへ、痛い1敗を喫した。大関豪栄道も敗れて、横綱、大関陣の全勝は稀勢の里ただ1人となった。ほかに、平幕の勢と逸ノ城が全勝で並ぶ。

 自身の負けを告げる場内アナウンスが響く。その途端、琴奨菊の顔は一気に険しくなった。支度部屋に戻ると何度もぼやいた。「もったいない」「クソッ!」。全く危なげない相撲を取っていた序盤戦の最後に、落とし穴が待っていた。

 圧力は今まで通りだった。ただ、差した右腕がきめられて、足が出なかった。鍵とする「密着」がない。土俵際ではたき込みを食らって左足が返った。隠岐の海の体が出るのとは微妙な差。行司の式守勘太夫は迷い、相手に軍配を上げた。

 物言いの協議は2分半を超えた。その間、大関の感触は「分からなかった」という。祈る気持ち。しかし、井筒審判長(元関脇逆鉾)の言葉は無情だった。きめられた右肘を冷やしながら「仕方ない。流れの中だから」と心をしずめた。

 この日の朝稽古後、土俵に1人残って、1つの立ち合いを繰り返した。左に動きながら上手を取る形。「隠岐の海への勝機を上げるために」と話していた。

 だが、出さなかった。それは、1つの信念だった。「自分が強くなっていくためには正面からぶつからんと。そういう意味を込めた。結果は負けたけど、目指すものは出せたと思う」。

 綱とりの序盤で喫した痛い1敗。ただ、1場所15日制となった49年夏場所以降、序盤に黒星を喫しながら昇進した横綱は31人中、11人もいる。まして、引きずる負け方ではない。「(立ち合いで動かず)自分に勝った。それだけでは甘いと言われるかもしれないが、今後につながる負けだと思う」。そう、自分に言い聞かせた。【今村健人】