関取最年長の西前頭3枚目安美錦(37=伊勢ケ浜)が悪夢に襲われた。同4枚目の栃ノ心をいなして勝ったかに見えた瞬間、左アキレス腱(けん)を断裂して土俵に崩れ落ちた。3日目からの休場が決定。さらに栃ノ心の足が先に出たように見えたが、軍配は相手で、物言いもつかなかった。今日10日に再検査を行うが、復帰に半年以上かかる恐れがあり、ベテラン業師が突然の引退危機を迎えた。

 前のめりに崩れ落ちた安美錦が、顔を突っ伏しながら右手で何度も土俵をたたいた。大けがを何度も経験しているベテランが、耐えられない痛み。「左のアキレス腱が、ボンッと音がした。後ろから殴られた感じ。力が入らない」。

 自ら呼び出しを呼んで、肩を借りて土俵から下りた。病院へ向かい、夜に対応した師匠の伊勢ケ浜親方(元横綱旭富士)は休場を明言して「切れている。相撲が取れる状況ではない。(部分断裂か完全か)詳しいことは分からないので明日、検査する。手術をする」と無念そうに話した。

 悲劇は、それだけではなかった。顔をゆがめて左膝から落ちたのは、栃ノ心の体をうまくいなして両手で送り出した瞬間。勝負をあきらめた栃ノ心の左足が先に土俵を割ったように見えた。だが、軍配は相手。物言いすらつかなかった。勝負結果は「つきひざ」で「出たと思ったから倒れたのに…」。この状況でも白星への執念を見せた業師の恨み節が、悲しく響いた。

 古傷の両膝に装具と大きなサポーターが欠かせない関取最年長の37歳。再検査によるが、復帰に半年以上かかる恐れがある。十両から転落する可能性もある。巧みな相撲で沸かせる安美錦の土俵人生が、思わぬ岐路を迎えた。【今村健人】

 ◆アキレス腱を断裂した主な力士 横綱羽黒山は47年秋に4場所連続6度目の優勝を果たした後、右アキレス腱断裂で3場所連続全休。49年夏に復帰し、その後全勝優勝もした。元小結龍虎は71年九州で断裂し、4場所休場で幕下に落ちるも、その後に小結復帰。元関脇富士桜は84年初に断裂し、翌春全休後に復帰。ただ、幕内には戻れなかった。元前頭の大翔山と蒼樹山は部分断裂を経験。2人とも2場所後復帰し、蒼樹山は再入幕。元前頭戦闘竜は02年2月の断裂で幕下に落ちるも十両に戻った。