断酒を敢行中の西前頭2枚目の逸ノ城(23=湊)が横綱日馬富士(32=伊勢ケ浜)を破り、自身3個目の金星を挙げた。1分半を超える長い相撲の末に寄り切り。春場所前から続けるタイヤ押しなどの体幹トレーニングの成果が、徐々に表れ始めた。大関照ノ富士も新関脇の勢に敗れて、横綱、大関陣の初日からの全勝は2で止まった。

 目の前を座布団が舞う。小結で白鵬を倒したちょうど1年前の夏以来、久しぶりの光景だった。「座布団が急に飛んできた。これが結びか」。思い出された快感。攻めて日馬富士に勝った逸ノ城は「良かったす」と、かわいらしく笑った。

 昨年春の日馬富士戦以来3個目の金星。ただ「1分34秒5」の中身は今までと違った。押されても引かずに残し、左の巻き替えには切れ味があった。巻き替えられたが、攻める気持ちが随所に出て、最後は力強い寄り。「ごまかして勝つより、いいですね」と喜んだ。

 この日まで、横綱戦10連敗。そのふがいなさが、変わった。砂袋も乗った3つの大型タイヤが連なる総重量約160キロを、2月からすり足で押し続ける。稽古場の土との摩擦が大きく「腰をしっかり下ろさないと進まない」。下半身の意識が強くなった。何より「成果はまだ。ずっと続けないと意味がない」と言う。妥協がないその姿勢こそ「モンゴルの怪物」と呼ばれた男の成長の証しだった。

 春場所から、場所中は酒を一滴も飲まない。今場所は番付発表から断酒し「体調がちょっと違います」と笑う。千秋楽でおかみさんと飲み明かすのが楽しみ。だから、1つの金星に酔うことはない。【今村健人】

 ◆金星 平幕力士が横綱を破ることをいう。三役以上(小結以上)が勝っても金星にはならない。場所ごとに支給される力士褒賞金(給金)も10円アップし、実際には4000倍した4万円の昇給となる。角界では隠語で、美人のことも金星と呼ぶ。