<日刊スポーツ映画大賞:主演男優賞・笑福亭鶴瓶(ディア・ドクター)>◇28日◇ホテルニューオータニ

 第22回日刊スポーツ映画大賞・石原裕次郎賞(日刊スポーツ新聞社主催、石原裕次郎記念館協賛)の授賞式が行われた。

 落語家笑福亭鶴瓶(58)が、初主演作「ディア・ドクター」で主演男優賞を獲得、前年の同賞受賞者でSMAP中居正広(37)から表彰盾を贈られた。バラエティー番組での共演が多い2人は、役者同士としての対面に照れたが、互いに刺激を受けた。

 鶴瓶は緊張していた。控室でもほとんど飲食せず、壇上に上がった時は「よう分からんようになった」という。「期待されそうやけど、面白いことは言えない。ほんっとにこんな席に上がれるとは思ってなかったので」とまじめにスピーチ。ただ、いつもの目尻を下げた笑みで、周囲に緊張を感じさせなかった。

 だが、壇上で間近にいた中居だけは気付いていた。表彰盾を渡した後、「(鶴瓶は)震えてました。あんなことはめったにない。この賞の重みを感じたんじゃないでしょうか」と打ち明けた。しかし壇上では鶴瓶に「スピーチ全然、面白くなかったですよ」と小声でささやいた。鶴瓶も笑顔で「何やねん」と返し、じゃれ合った。さらに中居は「調子に乗るタイプだから、人間変わりますよ」とちゃかし、鶴瓶も「変わりません!」と叫んだ。緊張はほぐれた。何度も共演した2人だからこその、思いやりだった。

 昨年授賞式の主演男優賞は、SMAP木村拓哉から中居への表彰だった。中居は「今年もうちのメンバーだったらいいなと思ったんですけど、似ても似つかないメンバーで」と笑わせた。鶴瓶をからかいながらも「メンバー」という言葉を使ったことに、親しみと近しさを感じさせた。鶴瓶は授賞式後に「これでSMAPの一員になれました。これ、ちゃんと書いておいてや」と言い笑った。

 鶴瓶は今回の受賞が大きな刺激になった。「映画って、2カ月も3カ月もかかるけど、作って1年たってもこうやって見てくれる人がいて、世界にも出て行く。50万人動員して、見た人が元気になるってすごいこと。『映画ってこういうことか』ってやっと分かりました」。これまでも、何度か映画出演はあったが「テレビに出てるし、(出演すれば)ちょっと(作品が)派手になるからやろって、って疑ってた」そうだ。

 しかし「ディア・-」で映画作りに本気で取り組んだ。「今まで『鶴瓶が必要やから』と言ってくれた人を疑ってたことを、ほんまに悪かったって思う。映画を作る人たちは本当に、映画で元気にしたいと思ってる人たちやって分かった」と言った。

 この受賞を本業の落語にも還元していく。50歳になって新たに落語のスタートを切って8年。鶴瓶は「最初はどうなるか分からんかったけど、いろいろなことができると分かった。この賞を引っさげていきたい。もちろん調子に乗ったらアカンし、そんなことしたら裕次郎さんに悪いから、品格を考えてな」と話した。

 「ディア・-」の鶴瓶は、多くの俳優に刺激を与えた。公開後、三浦友和、津川雅彦らから「良かった」と連絡があったという。もちろん、中居も例外ではなく「あの年で汗をかいているのはすてき。落ち着いていこうかなと思っていましたが、僕もしっかり汗をかこうかな」と話した。鶴瓶には周囲を巻き込む力がある。【小林千穂】