宮崎駿監督が8日、アカデミー賞を主宰する映画芸術科学アカデミーから「アカデミー名誉賞」を授与されたことは、すでに多くの報道でご存じのとおりと思います。アカデミー名誉賞は、映画界への長年の功績をたたえるもので、日本人としては1990年に受賞した黒沢明監督以来、24年ぶり2人目の快挙となりました。授賞式は毎年3月に行われるアカデミー賞授賞式とは別に行われ、ディナー形式でテレビ中継もなく、授賞式の様子は翌年のアカデミー賞授賞式の中で紹介されます。

 宮崎監督は03年に「千と千尋の神隠し」でアカデミー賞長編アニメーション部門を受賞している他、06年には「ハウルの動く城」、今年は長編引退作となった「風立ちぬ」でノミネートされています。しかし、過去3回とも授賞式は欠席しており、アカデミー賞の晴れ舞台に立ったのはこれが初めてでした。授賞式後の会見で感想を聞かれた宮崎監督は、「(今回の受賞は)ジョン・ラセターの陰謀ではないかと思っています。相当、運動したのではないかと」とコメント。ラセター氏に脅迫されたので仕方がなく来たと話して、会場を笑わせました。

 会見は冒頭から、「(オスカー像は)本当に重いんですよ。持ってみて下さい。箱もくれないんですよ」と、宮崎監督独特の雰囲気の中でスタート。その後も、「賞はもらえないと腹が立つけど、もらっても幸せになれない。賞で何も変わらない。賞では決着がつかないし、翻弄され、ドキドキするだけ不愉快。黒沢さんももらいたくなかったんじゃないかな。映画を作るのはもっと生々しい。ご苦労さん賞でしょ」などなど次々と本音が飛び出します。

 そんな宮崎監督が、今回の授賞式で一番感動したことは、同じく同賞を受賞したアイルランド出身の往年のハリウッドスター、モーリン・オハラさん(94)と会えたことだったと言います。「まさか生きていると思っていなかったし、会えるとも思っていなかった。振り向いた時のシルエットが昔のままで・・・握手した感動は今も残っている」と子供のように興奮気味に話していたのが印象的でした。

 今回の受賞者3人の平均年齢は84歳。唯一の70代で最年少の宮崎監督は、「僕なんて小僧ですよ。おそれいりしまたという感じ。リタイアとか声出して言わずにやれることをやっていこうと思いました」と話していましたが、ハリウッド業界内でも宮崎監督の人気は絶大です。ディズニーの大ヒットアニメ「アナと雪の女王」などを手掛けるジョン・ラセター氏との厚い友情は有名ですが、他にも「アバター」を手掛けるジェームズ・キャメロン監督らファンが大勢います。授賞式でも、多くの人から声をかけられ、握手を求められるなど大忙しだったようで、「ご飯を食べる暇もなくて」と苦笑いをしていました。授賞式は苦手と言う宮崎監督は、「できるだけにこやかにしていたつもりです。氷の微笑みみたいにね(笑)」とにったり。「生涯に1回しか着ることがないと思う」と言うタキシードに蝶ネクタイ姿で、最後はオスカー像を手ににこやかに写真撮影を行いました。

 そのオスカー像も、「とりあえず家族には見せますが、飾りません」と話していましたが、その後の鈴木敏夫プロデューサーとの話しで、東京・三鷹の森ジブリ美術館に飾ることで落ち着いたようです。最後まで自分自身のスタイルを貫く宮崎監督らしい会見でした。

(このコラムの更新は毎週火曜日です)