星組2番手スター紅ゆずるが主演する星組公演「キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン」が17日、東京・赤坂ACTシアターで幕を開けた(23日まで)。天才詐欺師にふんして多様なキャラクターの早がわりに臨んでいる。レオナルド・ディカプリオとトム・ハンクスによる映画(02年)をもとにしたミュージカルで、宝塚きっての芸達者ならではの舞台運びが注目される。大阪・シアター・ドラマシティは29日~7月6日まで。

 学生、パイロット、医師、弁護士…詐欺師役の紅が変幻自在に化け続ける。

 「幕が開いたら30分は引っ込まない。舞台上でしゃべり、着替え続け、踊り続ける。16歳の少年が家を飛び出すところからだから、制服から着替えていくので、マフラーや小道具もポケットに入れているんです」

 専科の上級生が「こんなにしゃべり、歌う宝塚の主役を見たことがない」と驚くほどのセリフと楽曲の量。歌唱音域は、男役キーから娘役のソプラノまである。「ほとんど(舞台から)はけないので、はけた瞬間みんなに拍手されます」。

 紅といえば長身を生かした大人の男から、大阪生まれらしい笑いのセンスによるコミカルな男性まで演じる芝居巧者だ。特長を生かした役柄だけに「大変ですけど、充実しています。期待値の高い作品、やりがいはあります」と笑った。

 多様な職業に化けるため、医師を研究しようと「病院に潜入しようと思ったけど、時間がなくて」。代わって「パイロットの勉強をしようと、飛行機に乗ったとき、コックピットが見えないかな~と。頑張ったんですけど無理で(笑い)」。突拍子もない発想だが、ノリが第一の大阪人だ。

 いたずらも大好き。けいこ場では、演出の小柳奈穂子氏が紅の演技プランを見て笑い転げたという。もとになった映画も見た。

 「とってもおもしろいと聞いていたので、爆笑ものかと思ったら、ちょっと切なかった。詐欺をするきっかけも、ただのコメディーじゃないところがポイント」

 ディカプリオからは「やたら大きいアクションを取り入れ、外国人になろう」と考えた。大量の楽曲やセリフは「絶対覚えたるって意地で覚えた」と話す。

 もともとは、じっくりとけいこを重ねたいタイプ。「順番にセリフを入れ、書いて頭の中でつなげていく。それで、いつも眠れなくなるけど、今回はすぐ寝ていた。疲れすぎて!」。長ゼリフの後、相手が一言で返すと「この野郎! とか思う、あははは」。独自の言い回しで“苦闘”を表現した。昨年は一時、体調を崩してイベントを休演、ファンを心配させた。

 「人間って、いや~、病気になるんやなって。皆さんにすっごい心配をかけてしまって。教室(稽古場)が“千羽鶴の嵐”に。でも愛だな~と思いました。健康グッズ、お手紙といろんなもの送ってくださった」

 感謝は尽きないが、その表現法は、やっぱり笑いだった。昨年、主演した全国ツアー「風と共に去りぬ」では、劇場からの帰りを待つファンを喜ばせようと「全身タイツで出たりした」とか。「そんなことでしか、お返しできない。こんなこと考えて、やってるんだから元気ね、みたいな」。

 そんな紅だけに、今回も何を仕掛けてくるか-。「ストーリーテラーもやっているので、お客さまにも話し掛けます。お客さまも出演者。私はもう大丈夫。ただただ、笑ってください」。あふれる感謝の思いを、笑いに変え、再び主演舞台に立つ。【村上久美子】

 ◆ミュージカル「キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン」(原作映画=ドリームワークス、日本語脚本・歌詞、演出=小柳奈穂子氏) 60年代に世界を騒がせた実在の天才詐欺師、フランク・アバグネイルの自伝をもとに、02年スティーブン・スピルバーグ監督で映画化。レオナルド・ディカプリオ、トム・ハンクスらが出演した。09年にミュージカル化され、ブロードウェーでも上演。パイロットや医師、弁護士になりすまし、大金を得た天才詐欺師の生きざまを、FBI捜査官カール・ハンラティ(七海ひろき)との駆け引きを交えて描くミュージカル・コメディー。

 ☆紅(くれない)ゆずる 8月17日、大阪市生まれ。02年「プラハの春」「LUCKY! STAR」で初舞台。08年「ザ・スカーレット・ピンパーネル」で新人公演初主演。11年「メイちゃんの執事」でバウホール初主演。13年、台湾公演参加。昨年「風と共に去りぬ」で全国ツアーに初参加し、レット・バトラーを演じてツアー初主演。身長173センチ。愛称「さゆみ」「さゆちゃん」「ゆずるん」「べに子」。