専科を経験した異色の星組トップ、北翔海莉(ほくしょう・かいり)は、「人斬り半次郎」こと桐野利秋を描いた「桜華に舞え」で音楽学校から21年の宝塚生活の幕を引く。多忙な最中、鹿児島の示現流道場へも足を運んだ。劣等生入団から頂点へたどり着いた北翔は「私らしく散りたい」と最後まで全力で舞う。ショーは岡田敬二氏による「ロマンス!!」。兵庫・宝塚大劇場は10月3日まで、東京宝塚劇場は10月21日~11月20日。

 歌、芝居、ダンスともに優れる実力派トップは、不器用なまでにまっすぐ。北翔は多忙を極めるサヨナラ公演でも妥協は許さない。

 「本物、真実を知った上で宝塚バージョンをやらないといやなので、鹿児島の示現流の道場で2日間、おけいこしてきました」

 1日3時間、薩摩の流派を身に染み込ませた。

 「やるときはバサッと、真っ二つに、こう(腕を振り下ろすしぐさ)。私、腰が入っていて、筋がいい、ほんとに初めてですか? って言われた(笑い)」

 剣を振り下ろす太刀筋は、薩摩の仕業とすぐ分かったと伝わる。その動きを体得。「この作品に出会うために宝塚に入った」と感じるほど、台本にひかれた。

 「薩摩隼人って、笛も吹くし、薩摩琵琶もやる。戦いで気持ちが高揚する分、精神統一、自分をコントロールするために、たしなんだらしいです」

 明治維新の立役者の1人ながら、西南戦争の「張本人」ともされる桐野利秋像も調べ尽くした。「西郷(隆盛)さんにただ付いてきて、この人のためなら自分の命は惜しくないと思うような人」。運命にも重なった。西郷役は、同期で専科の美城れん。北翔にとっての“師匠”でもあった。

 「私にとっての西郷さん(師匠)は彼女。(宝塚音楽学校の)合格発表に行ってなくて(入学後は)髪の毛を切ることも、白いハイソックスをはくことも知らず、長い髪の毛のまま、黒いタイツで行ったら、先輩にすごく怒られて。すべて彼女が教えてくれた」

 北翔はほぼ最下位に近い成績で合格。「この人に付いていけば間違いないと思った」のが美城だった。彼女も今回、北翔と同日付で退団を決めた。

 「役を通しての思い、セリフが重なる。そもそも、苦難に立ち向かう勇気、真心…ご先祖さまが、いろんな時代を乗り越えてきたからこそ、今、自分たちの命があるわけですし…」

 宝塚102年の重みも同じ。北翔自身はトップのバトンを、次期就任が発表された紅ゆずるに渡す。

 「星組って土台、ピラミッドがしっかりしていて、安心して入れる組でした」

 星組では、前トップ柚希礼音の体制が長く「受け入れてもらえるか不安だった」と言うが、成熟した組の底力に頼もしさも感じた。次期の紅にも不安はない。

 「(紅は)もともと、柚希さんの次(2番手)に控えていましたから。やっと、花開くことができる。なるべくして(就任)なので『お待たせしました』って感じですかね(笑い)」

 近年のメドより短い本拠地3作で退く。「いい修業をさせていただいた。出会うべき人に出会い、学ぶべき物も学び、次の扉を開ける土台ができた」と言う。

 退団後は「エンターテイナーとしての仕事を続けたいとは思います」とも口にした。新天地への扉を開ける前に、男役の散り際を飾る“最後の仕事”が待っている。【村上久美子】

 ◆グランステージ「桜華に舞え」-SAMURAI The FINAL-(作・演出=斎藤吉正氏) 類いまれな度胸と「人斬り半次郎」と呼ばれた剣の腕で、明治維新の立役者の1人となった薩摩藩出身の桐野利秋。明治新政府で要職に就きながら、敬愛する西郷隆盛(美城れん)に伴い下野。西南戦争へ進んだ男の生きざまを描く。会津の娘(妃海風)との恋、旧友との友情、対立も織り込んだ人間ドラマ。

 ◆ロマンチック・レビュー「ロマンス!!(Romance)」(作・演出=岡田敬二氏) 宝塚レビューの第一人者によるロマンチック・レビュー・シリーズの19作目。不変テーマ「愛の世界」を軸につづる。

 ☆北翔海莉(ほくしょう・かいり)3月19日、千葉県生まれ。98年「シトラスの風」で初舞台を踏み月組配属。06年宙組。12年7月に専科。14年1月の星組公演で轟悠、水夏希に続き3人目のスター格での5組制覇。昨年5月、17年2カ月で星組トップ。趣味はサックス、フラメンコなど。普通自動車免許のほか大型特殊や、牽(けん)引の免許も取得。身長169・7センチ。愛称「みっちゃん」。