静岡県清水市(現静岡市清水区)で1966年に一家4人を殺害したとして死刑判決が確定後、静岡地裁の再審開始決定で約48年ぶりに釈放された袴田巌さん(79)の日常生活を記録したドキュメンタリー映画「袴田巌 夢の間の世の中」(119分)が完成した。

 演出家出身で、再審請求中の狭山事件を扱った映画「SAYAMA」でも知られる金聖雄さん(52)が監督。袴田さんの釈放から1カ月たった2014年4月から今年8月まで、撮影時間は約200時間に及んだ。

 死刑囚として長期間拘束されたことの影響とみられるちぐはぐな言動をそのまま映し出した。金監督は「死刑の恐怖がどんな影響を及ぼすのかありのまま伝え、人生の尊さを訴えたい」と話している。

 事件を振り返る様子や一緒に暮らす姉秀子さん(82)とのやりとりを静かなタッチで記録。元プロボクサーとして試合を論評したり、支援者と将棋に興じたりするほほ笑ましい場面もある。

 タイトルは東京拘置所にいたころに袴田さんが知人に宛てた手紙の一文を引用。金監督は「釈放後も現実をさまよっているような袴田さんのイメージに当てはまった」と説明する。

 今月以降、試写会を開き、来年春から全国で劇場公開する予定。金監督は「袴田さんは残酷な運命を受け入れ、ゆっくりだが、前を向いて生きている。希望を感じ取ってほしい」と話している。