レオナルド・ディカプリオ(41)主演の米映画「レヴェナント 蘇えりし者」(22日公開)に、音楽担当として大自然の響を吹き込んだのが坂本龍一(64)だ。中咽頭がん公表から1年9カ月。8日からは「健康音楽」と題したユニークなイベントも開催する。大病を乗り越えた「教授」がまた活動の幅を広げている。

 「レヴェナント」のアレハンドロ・G・イニャリトゥ監督(52)から依頼を受けたのは昨年4月。前作「バードマン」で、アカデミー作品、監督、脚本賞を独占したばかりのイニャリトゥ氏は「時の人」だった。

 「今ピークの才人からの依頼です。それはやりたい。でも、大病の治療を終えたばかりで、体力、気力は半分くらい。悩んだんですけど、すごい勢いで『来てくれ』と言われまして」

 実は相思相愛の関係だった。06年「バベル」でも坂本の曲が使われ、坂本も15年来監督のファンだった。

 「依頼から半年、いろいろ話しました。僕も忘れているような大昔の曲が話に出てくる。あなたは『アコースティックからテクノまで振れ幅広いだろ』と。その2つを融合したものを作ってくれ、複雑な音の組み合わせが欲しい、と」

 「戦場のメリークリスマス」(83年)「ラストエンペラー」(88年)など、数多くの大作を手掛けてきたが、今回は勝手が違った。

 「映画音楽というと通常分かりやすいメロディーを書きますけど、そういう型にはまったものはいらない、と言われました。まだ粗い編集段階の映像を見せられたんですけど、大自然、人間…迫力に圧倒された。サウンドを重ねたノイズのような音楽で、なおかつ感情も込めるのは難しい。製作途中だから1週間で2回くらい映像が変わる。経験したことのない作業でした」

 完成した作品はディカプリオに初のアカデミー主演男優賞をもたらし、イニャリトゥ氏は2年連続の監督賞に輝いた。音楽は風や地響きのように、ときにディカプリオの心を映すように効果を高めている。

 こん身の「レヴェナント」とは対照的に緩やかな音楽イベントとして開催するのが「健康音楽」だ。

 「僕も大病をしたし、健康を念頭に置いて、音楽、食、運動、笑い…何でもありのテーマパークのようなものですね」と笑う。ジャンルの垣根をすいすいと跳び越えて活動する坂本らしいイベントともいえる。

 「僕は自分のことを信用してないんですよ。昨日まで嫌いだったものが急に好きになる。例えばハワイアンはどうしても好きになれなかったんですけど、この前ハワイに行って歴史に触れたんですよ。いいんですよ。今は新作旧作聞いてます。ミュージカルも嫌いで見たことがない。でも、ニューヨークに26年住んでますから、いつでも見られる環境。もし見て好きになったらどうしよう、なんて」

 確たる才能とセンスに恵まれながら「自分を信用できない」と言い切る。常に変化し、進化を続けられるゆえんかもしれない。【相原斎】

 ◆坂本龍一(さかもと・りゅういち)1952年(昭27)1月17日、東京生まれ。東京芸大在学中にスタジオ・ミュージシャンとして活動開始。78年結成のYMOがブームに。88年「ラストエンペラー」でアカデミー作曲賞。89年にはグラミー賞オリジナル映画音楽アルバム賞。

 ◆健康音楽 8~10日、東京・恵比寿ガーデンプレイスで開催。坂本を中心としたレーベル「Commmons」の10周年を記念し、音楽ライブ、映画上映、落語会からフードまで幅広いコーナーがある。YMOでトリオを組んだ細野晴臣、高橋幸広から清水ミチコ、ポカスカジャンまで参加者も多彩。

 ◆「レヴェナント:蘇えりし者」  名狩猟者のヒュー・グラス(ディカプリオ)は、米北西部での狩猟中に熊に襲われ重傷を負った。仲間に命を狙われた上、助けに入った最愛の息子ホーク(フォレスト・グッドラック)を殺される。グラスは奇跡的に復活し、復讐(ふくしゅう)の旅に出る。