1993年1月に68歳で死去した作家の安部公房さんが、その約5年前に前立腺がんを告知され、公表せずに闘病生活を送っていたことを、恋人だった女優の山口果林(66)が手記につづった。30日に「安部公房とわたし」(講談社)として出版する。

 安部さんは死去した際の死因を「急性心不全」と報じられ、がん闘病については全集収録の年譜や日記の他、死後出版された年譜にも記載されていない。

 手記によると、87年11月に検査入院して前立腺がんが判明。頭蓋骨や大腿(だいたい)骨にも転移しており「余命は年単位」と診断された。88年に睾丸(こうがん)摘出手術、91年には放射線治療も受けた。

 安部さんは、自らのがんを世間に知られることを極端に嫌った。作家の間でうわさになっていると知り、友人をその発信源と疑って電話で激しく詰問したという。

 山口は桐朋学園大演劇科の学生時代、教師だった安部さんと出会った。手記には、妻子ある安部さんとの20年以上の交際を詳しくつづっている。

 山口は「東日本大震災の後、家族の写真をさがす人をテレビで見て、人間には生きた証しが必要だと感じた。安部さんが亡くなった年齢に自分も近づき、記憶が鮮明なうちに『自分史』として書いておかなければいけないと思った」と話している。