高倉健の主演映画「あなたへ」(降旗康男監督)がいよいよ25日に公開される。高倉にとって通算205作目、降旗作品は20作目。実に6年ぶりのスクリーン復帰を記念して、高倉と縁の深い人物に「あなたへ」の見所と人間・高倉健の魅力を語ってもらう。第1回は89年「あ・うん」で共演し、親交のあるタレント板東英二。
何を思って健さんはこの映画を作ったんでしょうね。「人は皆、いや応なしに老いていく」-。そのことを自分の人生の集大成として、メッセージにしたかったのかなあ。お世話になったみなさんへのごあいさつだったのか…。「あなたへ」でしょ?「みなさんへ」ですよ。演技やなく、素の健さんを見た気がします。
ほとんどのシーンがたわいないんです。なのに、1つ1つが重い。服役囚に「声を出すなよ」と声掛ける場面とか、詐欺師みたいのが出てきたりとか。みんな違う道を歩んできたけど、一生懸命だった。大切なものがあるんだ-というね。
人の琴線に触れるものを積み重ねていく。こんな映画珍しいですよ。どのエピソードにもはっきりした答えがない。こっちが考えないといかん。高校生くらいではまだ理解しにくいかも。銀婚式を挙げたぐらいの夫婦が見ると幸せになれる。
ただ夫婦一緒にではなく、別々に見に行った方がいいです。2人で行ったらお互い恥じらってしまって、何にも言わずに家に帰って…となるんじゃないかな。僕は嫁と2人でよう見んです。ウチのやつは一人で見に行くでしょうから、その後に何となく「2人、一緒になって良かったなあ」と心でつぶやくんじゃないかな。
健さんと最初に会ったのは「あ・うん」(89年)の撮影初日でした。東宝のスタジオに朝9時集合。顔合わせ、衣装合わせがあって、撮影に入るかは「健さん次第」って言われてました。
僕は8時前に着いて、部屋で1人で待ってたんです。誰かがすりガラスの戸をコンコンとたたく。スタッフと思い、座ったまま「どうぞ」と。パッと戸が開いて「高倉です。長丁場になるかもわかりませんが、どうぞよろしく」。カップに入れたコーヒーを持っておられて「お飲みになりますか?」-。ビックリして、こっちはそれどこやないですよ。僕より先に入ってらしたんです、あれだけの俳優が。
驚かすことが好きな人です。めちゃくちゃないたずら好きです。「あ・うん」の修善寺ロケで「健さんがものすごく怒ってる」という情報が流れましてね。「小道具のヤツがちゃんとしていない」とか。僕と健さんが一緒にいると、その小道具さんがやって来た。健さんは「忘れものしてるだろ」と言って、ビビッてるその人の首に「これだ!」といきなりペンダントをかけた。「俺が感謝してる気持ちを伝えるのを忘れてるだろ?」-。健さんは「自分が忘れていた」と言うてるんでしょうが、小道具さんは、何の意味かわからない。だけど「ありがとう!」と握手されると、もうワンワン泣いてね、50過ぎの人が。周りのスタッフは「わー!」と拍手で大感激ですよ。
僕もやられました。スタジオに入ると、健さんが「すみませーん。板東さんと話してたら、セリフがどうも入っておらず、自信がないらしくて…。撮影を中止にしてもらえませんか」と大声で言う。そんなこと言った覚えない。それやのに「撮影、本日中止でーす」と言われて…。すると「板東さん!」と腕引っ張られて、健さんの運転で目黒のそば屋に連れていかれたんです。2人なのに貸し切りでした。その後、原宿の喫茶店にコーヒー飲みに行って「きょうは楽しいねえ」って、うれしそうに笑ってらした。
でも、最近お会いする機会がないんです。今回もオファーなかったし…(笑)。そらねえ「鉄道員(ぽっぽや)」(99年)も、現場に4日間おってセリフは「夕刊!」だけ。健さんの作ってくれた鍋ばかり3日間食べてね。
ところが、先日、ついに甘酒をいただきました。「甘酒は夏バテにいいですよ」というお手紙も添えられておりました。本当にうれしかったなあ。
実は、1年半ほど前にいただいた手紙には「板東さんのことはよくわかっております。ご活躍も拝見しています。だから、僕のことはそっとしといてください」と書かれてあったんです。うちの嫁は「ひょっとしたら、怒ってはるんちゃう?」と言うし(笑)。僕が健さんのことをしゃべりすぎるから、嫌われてるんじゃないか…と不安になってたんで、ほっとしました。
前に「中国飯店でご飯を食べよう」と約束したんです。嫁も「いつだろうね?」って楽しみにしてるので、待ち遠しいですなあ。【2012年8月21日紙面
構成・加藤裕一】




