歌手浜崎あゆみ(29)が29日、東京・代々木第1体育館でデビュー10周年記念の日本ツアー最終公演を行った。左耳の聴覚をほとんど失っていると告白してから初のツアーで、体調を心配する全国のファン約23万人の後押しを受けながら、「元気なあゆ」も見せつけ完走した。聴覚障害の悪化に加え、昨年秋に「姉貴」と慕う親友を亡くしていた。数々のショックを歌うことで乗り越えた。

 あゆの涙が止まらない。全国ツアーの国内ファイナル。目の前のファン約1万2000人の拍手が温かかった。無数の「あゆー、泣かないで」の声。昨年からつらいことがたくさんあった。「全国で出会ったみんなにありがとう。最高の時間をありがとう」。声を振り絞り「ありがとう」を約20回繰り返すと、また泣き顔に戻った。デビュー10周年のクライマックスだった。

 ステージ上で直接触れることはなかったが、28日更新のファンクラブの公式ホームページで、この日を迎えるまでの日々を打ち明けた。昨年秋、「姉貴」と慕い、母親や親しいスタッフとも親交のあった親友が亡くなった。心理的ショックに加え、毎年恒例のカウントダウンライブに出演した際に、左耳が機能していないことを思い知った。「思うように歌えない、聞こえない。自分はもう2度と、これまでのようには歌えないんじゃないか」と絶望のふちにいた。

 年が明けてからの数日間。浜崎にとっては永遠に感じられる時間を「考えて、考えて、考えぬいたら、ひとつの答えにたどり着いた」。それが歌い続けることだった。2度と泣きごとを言わないと決意。不退転の思いで臨んだのが今回のツアーだ。リハーサルの始まるタイミングで「左耳は、もう完全に機能しておらず、治療の術はない」とHPで告白。ファンにすべてを知ってもらった上でツアーにかけた。リハは「精神的にも、肉体的にも、毎日、毎日が闘いだった」と吐露する厳しいもの。だが、最高のステージを求めて決して妥協はしなかった。

 ツアー初日の4月5日。この日と同じように、涙で顔をクシャクシャにしながら、ファンに「ありがとう」を連呼。同8日のデビュー10周年記念日には「これからも、みんなの温かい気持ちに応えられるように頑張る。私は幸せ者です」と感謝の言葉で最後を締めくくった。

 ツアーファイナルを前に更新したHPのメッセージに「私は幸せ者。私は何も失ってなかった。皆が私の左耳になってくれたから」。拍手の大きさは変わらずあゆに届いていた。