男子60キロ級の高藤直寿(23)が銅メダルを手にした。

 「色が違うな、間違っているな」。表彰式で受け取った銅メダルを見つめ、高藤は寂しげにつぶやいた。ただ、式の時だけは、必死に喜びを表した。「応援してくれる人たちのために、何かを持って帰らなきゃと思って、執念でした。情けない顔をしないで、堂々といようと」。柔道界では3位は敗戦。笑顔まで見せたのは理由がある。

 代表を選考する4月の全日本選抜体重別で3位も、リオ行きは決まった。「お前にかけた」。批判覚悟で選んでくれた日本男子の井上監督に言われた。振り返れば14年8月の世界選手権(ロシア)、不運な判定で2連覇を逃し、深酒で翌朝の集合に遅刻。「練習場に入れるな」とコーチ陣に指令した同監督は、強化ランク降格の厳罰まで下した。

 ただ、東海大でも指導してきた愛弟子を1人にはしなかった。帰国後に自ら丸刈り。その姿に高藤は「血の気が引いた」。自らも頭を丸めた。直後、同年6月に結婚した妻と一緒に謝罪に向かうと、第一声は「結婚おめでとう」。意外だった温かい一言に、恩返しの気持ちが固まった。意識改革。昨年12月の国際大会では3週間前に髄膜炎を患ったことを隠して優勝。何事も言い訳にしなかった。

 パピナシビリとの準々決勝、一瞬の隙に帯をつかまれて、隅返しで一本負け。「気力しかなかった」という敗者復活戦は、泥臭く指導差で勝利をもぎとった。メダルは最低の恩返しだ。井上監督は「色は金ではないが、誇りに思っている」と言葉を贈った。「胸を張って帰ろう。もっと良い色のメダルを取るために、さらに強くなる」。間違いない金の輝きは4年後に。

 ◆高藤直寿(たかとう・なおひさ)1993年(平5)5月30日、埼玉県生まれ。栃木県で育ち、神奈川・東海大相模中、高-東海大。11年世界ジュニア選手権制覇。13年に世界選手権優勝。得意は小内刈り、袖釣り込み腰。パーク24所属。160センチ、60キロ。