1月26日、Jリーグを裁く1級審判員が飲酒後に車を運転し、人身事故を起こした。現行犯逮捕され、48時間拘束された。現在は、自宅で謹慎中という。同審判員は2月1日に所属地域の審判委員長に報告し、さらに4日後の同5日に、地域審判委員長から、日本サッカー協会の理事も兼ねる上川徹審判委員長(52)に報告が入った。

 当たり前のことだが、酒を飲んでハンドルを握ることがあってはならない。子供を育てる親として、想像するだけでゾッとする。その審判員には、厳しい社会的制裁がくだされることだろう。

 気になるのが、その後の対応。地域の審判委員長が報告を受けてから上川委員長に報告したのは4日後。日本協会の対応が遅れたことに上川氏は「当事者がパニックになって最初の報告が遅れたことと、私に直接報告が入ったのではなく、1人が間に入っていたから」と説明した。つまり報告義務を怠った地域委員長の認識も甘すぎた。

 さらに許し難いのが、日本協会の対応だ。刑事罰が確定していないことや、事故を起こした審判員が受けるはずの会社的制裁を考慮し「名前まで出すのはあまりにも酷だ」(丸山コミュニケーション部長)との認識で、氏名も詳しい状況も公表しなかった。上川委員長は「調べると分かってしまうので、J1、J2、J3、JFLのどのカテゴリーを裁く審判かも言えません」と繰り返した。

 結局その後の調べで、その審判員は今季J3の割当に入っていたことが分かったが、事件発覚後、すべて取り消された。今後、長期の資格停止になるはずで、生まれ変わるくらいの努力がない限り、おそらく審判としてピッチに立つことは難しいだろう。

 最も気になることが一点。「審判」という言葉の持つ力だ。プロ選手はもちろん、草サッカーを楽しみプレーヤーも、審判の笛1つで一喜一憂する。応援するサポーターも同様だ。特にプロ選手は、間違った判定1つで死活問題につながる可能性もある。Jクラブも、1つの勝利を挙げるため、どれだけの資金をつぎ込むか。50億円予算のクラブが年間20勝を挙げるとしたら、単純計算で1勝には2億5000万円の価値がある。

 審判はピッチ上で、絶対権力を持つ。その分、責任も大きい。笛が鳴り、選手から抗議されたら、胸ポケットからイエローカード、さらにはレッドカードを取り出す。Jクラブの関係者によると、試合後にクラブから判定に対する意見書が出されると、審判委員会は「そういうふうにも見えます。今回は残念です」といった内容が返されることも多々あるという。

 「審判は選手に厳しいが身内に甘い」。プロ選手の多くがそう思っている。口に出すと不利益を受ける可能性があるため、言わない選手も多い。記事にはしないが、実際に多くのプロ選手から審判への不満を聞く。「誤審も試合の一部」というばかげた話で納得されられているのが現状だ。

 振り返ると、13年5月17日、浦和と鹿島の一戦。浦和FW興梠のゴールは明らかにオフサイドだった。しかしゴールが認められた。会場の大型ビジョンでは何度もゴールシーンが流れた。何度見てもオフサイドで、サポーターが怒るのも当然のことだ。後日会見した上川委員長は「審判の判断が誤ったかもしれませんが誤審ではない。何度も言いますが、誤審ではありません」と、つじつまの合わないコメントで「誤審」の2文字を強く否定し、身内をかばった。さらに「何度もそのシーンを流して、会場を騒がしくしたスタジアムの対応に問題がある」と、怒りの矛先をスタジアムに向けた。

 審判委員会が誤審と判定した場合、その審判は何試合か、割当から外す。選手で言うと出場停止に当たるが、公表はしない。上川氏は「全員がプロの審判ではなく、こっちからお願いすることもあるので、公表するつもりはありませんが、割当を見れば分かると思います」というが、もともと割り当てられないこともあるため、容易には分からない。

 身内に曖昧裁定しかできない審判委員会が、的確に試合を裁くことができるだろうか。今の体制では、選手もサポーターも、不信感は募る。審判のトップは、かばってくれた後輩たちには好かれているかもしれないが、そのせいで、審判員全体に向けられている根強い不信感が存在することに目をつむっているのではないだろうか。3月に就任する田嶋幸三新会長(58)の「開かれた協会」の意味をいま一度、考えてほしいと、切に願う。【盧載鎭】

◆盧載鎭(ノ・ゼジン)1968年9月8日、韓国・ソウル生まれ。サッカー担当約20年。2児のパパ。趣味はフェンシング観戦で、5月に駒沢体育館で予定されている第17回東日本少年個人大会が楽しみな年男。