川崎Fの風間八宏監督(54)が今季限りで退任することが発表された。昨年5月から川崎Fを担当しているが、初めて練習を見て驚いたのはパススピードだった。戦術練習は、ハーフコートのさらに3分の1のスペースで実戦を行うのだが、パスの速さとトラップの質が今まで見たことがないものだった。狭いスペースでも、ボールが枠外に出ることがなく高速パスがつながりシュートまでいく。普通なら同様のスペースで練習をしたら、1、2本ボールをつなぐだけで間違いなく「アウト」になってしまうだろうに…。

 シュート練習も違った。コーチが超高速パスを出し、選手がそれをピタリと止めてドリブルからシュートに持ち込む。今まで見てきたのは「おあつらえ向けのゆったりしたパス」を出してもらってのシュート練習。当時はサッカー担当としてわずか2年だったが、これまで見てきた他クラブとの質の違いは歴然だった。

 風間監督が就任から5年間で徹底したのは「蹴る」「止める」の基礎の向上。監督は「50メートル走で1秒差をつけるのは難しいよね。でも、蹴る止めるを3回繰り返せば、軽く3秒の差がつく」と話していた。止めてから蹴るまでの速さは0・3秒以内。パススピードと正確性にもこだわり、数センチのズレさえ各選手が追求するようになった。また、止めてからすぐ次の動作に移ることができる「ボールの置き場所」を認識させ、各選手がそれを突き詰めていった。

 伸びる選手はメキメキと頭角を現した。DF武岡優斗(30)は14年にJ2横浜FCから移籍してきたが、今や日本代表候補に登録されるほどに成長した。DF車屋紳太郎(24)谷口彰悟(25)は筑波大時代から風間監督の教えを受け、日本代表候補に入り、日本代表のFW小林悠(29)MF大島僚太(23)も「フロンターレで技術を磨けた」と口をそろえる。ベテランMF中村憲剛(35)も「プロでもうまくなる」と風間監督の5年を表現。19歳のFW三好康児、DF板倉滉も試合に絡み始め、三好は今季リーグ3得点と、U-19日本代表でも際立つ。ある他クラブの選手が、雑談の中で「フロンターレに入るとみんなうまくなっていますよね。自分も、試合に出られなくてもいいから、フロンターレに入ってうまくなりたいなあ…」と漏らしていたが、その言葉にもうなずける。

 試合も攻撃的でおもしろく、観客動員数も平均2万人を超え、年々増えている。今季はさらにパスのスピード感が増し、年間勝ち点2位と初のタイトルを狙える位置までつけている。風間監督は残り試合について「すごいね、こいつらこんなことができるんだ、2度と見られないよ、という試合を見せてやりたい」と話す。日々進化する川崎Fの攻撃サッカー。風間監督の下で培った技術力で、残りのリーグ戦、天皇杯、チャンピオンシップで大暴れすることを期待したい。


 ◆岩田千代巳(いわた・ちよみ) 1972年(昭47)、名古屋市生まれ。菊里高、お茶の水女子大を経て95年、入社。主に文化社会部で芸能、音楽を担当。11年11月、静岡支局に異動し初のスポーツの現場に。15年5月、スポーツ部に異動し主に川崎F担当。