JR尼崎駅から歩いて10分ほど。飲食店が並ぶ通りを過ぎ、住宅街に入ったところに、小さな練習場がある。屋上にテニスコートが2面。そこにゴールを設置して、即席のフットサルコートにしている。夕方になると、小学生が続々と集まってくる。電車を乗り継いで、遠方から来る子もいる。

 日本が初のアジア制覇に輝いたU-19(19歳以下)アジア選手権で、大会MVPに選出されたMF堂安律(18=G大阪)が技を磨いたのは、そんな小さなテニスコートだった。サッカーを始めた時から、小学校を卒業するまで通った。お世辞にも広い場所とはいえない。だから、コーンを使ったドリブルにフェイント、ターン、トラップなど基本練習の繰り返し。当時のことを聞くと、堂安は「正直、高学年になると、練習が飽きてきた頃もありました。でも、あれを徹底してやってきたから、今の俺があると思うんです」と言った。

 11月にパプアニューギニアで開催されるU-20(20歳以下)女子W杯に出場するDF羽座妃粋(はざ・ひすい=日体大)も、同じ場所で技術を磨いた1人。昨季までC大阪に在籍し、現在はポーランド2部ベウハトフのMF岡田武瑠、J3長野のMF山田晃平、鳥取のMF林誠道ら、ここからプロの扉を開いた選手も多い。

 堂安がアジアの頂点に立ったサウジアラビアとの決勝戦(10月30日)から一夜明けたこの日も、テニスコートにはたくさんの小学生が集まってきた。幼い頃の堂安を育てた鈴木大人(ひろと)コーチが、円陣を組んでストレッチをしながら子供たちに語りかけた。

 「昨日は、日本サッカーにうれしいことがあったんだぞ。U-19が、アジアチャンピオンになったんだ。MVPになったのは、誰か知ってる? 堂安律。そう、ここで、みんなと同じように練習していた選手なんだよ。みんなもね、一生懸命にやったら、代表になれるかもしれね~ぞ!」。

 子供たちは目を輝かせながら、コーチの話に耳を傾けていた。ストレッチが終わると、小刻みにステップを踏みながらドリブルの練習が始まった。日が暮れた小さなテニスコートに、ボールが弾む音が響く。東京五輪のエース候補とも呼ばれる堂安が育ったのは、そんな秘密基地のような場所だった。


 ◆益子浩一(ましこ・こういち)1975年(昭50)4月18日、茨城県日立市生まれ。京産大出身。00年に大阪本社入社。プロ野球阪神担当を経て、04年からサッカー担当。W杯は10年南アフリカ、14年ブラジル大会を取材。