【テヘラン11日=塩畑大輔、栗田成芳】日本代表が、黒く染まったスタンドに取り囲まれる可能性が浮上した。親善試合イラン戦が行われる明日13日は、イスラム教徒が多数を占めるイランで「ムハッラム」の初夜。この日の前後から黒い服を着て過ごすため、アザディスタジアムのスタンドが黒く染まり、異様な雰囲気になると、現地イラン人が証言した。9月に中立地開催で行われたアフガニスタン戦では空席が目立ったが、今回のアウェー戦では思わぬ敵となりそうだ。

 黒く染まったスタンドから、日本選手に野太い声のヤジが突き刺さる-。イラン戦は、そんな環境で戦うことになるかもしれない。イスラム教徒にとってラマダン(断食)の次に大事とされる「ムハッラム」の初夜と、代表戦が重なった。イランでは黒い服を着て過ごすため、現地のイランサッカー関係者は「上半身は黒いシャツを着て観戦に行くイラン人が多いでしょう。日本人にとっては異様な雰囲気になるかもしれない」と、警鐘を鳴らした。

 日本がこれまで中東の国と対戦する際、ラマダンの時期と重なることはたびたびあった。日中の食事は原則厳禁で、コンディションに影響するため、日本にとって有利に働いてきたことはあるが、今回は違う。中東の完全アウェーに、独特なムードが漂いそうだ。

 約9万人収容のアザディスタジアムは、老朽化や警備上などの理由で、上段席は開放されない。満員こそならないが、日本戦とあってイランでも注目度は高い。しかも、荒っぽい言葉が飛び交い、現地の女性は敷地内に入ることが許されない。迫力ある男性の声で、日本にプレッシャーをかけてくる。バヒド・ハリルホジッチ監督(63)が望んだ「厳しいアウェー戦」は、親善試合ながらこれ以上ない舞台となる。

 DF槙野智章(28=浦和)は「難しい試合になると思うけど、やりがいのある試合」と、W杯予選さながらの雰囲気を味わえることを、プラスにとらえた。ベスト布陣で臨んだシリア戦から、前線のポジションを中心に大幅な選手の入れ替えが予想される。主力が固定化されている日本にとって、若手の台頭は課題の1つ。独特なアウェー感たっぷりの雰囲気で戦った先に、新たな日本が見えてくる。【栗田成芳】

 ◆ムハッラム イスラム暦の1番目の月。ラマダン(断食月)に次ぐ神聖な月とされる。特にシーア派ではこの月に、ムハンマドの孫にして同派第3代イマーム(最高指導者)のフサイン・イブン・アリーが側近72人とともに、ウマイヤ朝軍3000人に包囲され惨殺されたとされる(西暦680年カルバラーの戦い)。そのため他の宗派よりも熱心に行事が催される。イラン革命の際も、同月に行われたデモがイスラム国家樹立につながった。