日本代表FW武藤嘉紀(23=マインツ)が、1年1カ月ぶりの代表ゴールを決めた。0-1の後半3分にFW本田圭佑(29=ACミラン)のクロスを頭で競り、最後は背中で同点弾を押し込んだ。代表初ゴールを決めた昨年9月のベネズエラ戦から400日目での通算2点目。アジア最強イランの敵地で1トップとして存在感を示した。引き分けた日本は、W杯アジア2次予選E組の次戦で11月12日にシンガポールと対戦する。

 2つの肖像画が掲げられたアザディスタジアムで、武藤が両足で思い切りよく踏み切った。本田が右サイドから入れたクロスに対してイランのGK、DF2人と競り合う。1対3の局面で、GKがパンチングしたボールが武藤の背中に当たって無人のゴールに転がった。「誰が決めてもうれしかったですけど、長かったですね…。だいぶ苦しかったです」。本音だった。

 長いブランクをようやく埋めた。昨年9月9日ベネズエラ戦で、代表初ゴールを決めてからちょうど400日目。成長を求め、今夏ブンデスリーガへ移籍し、夢だった海外挑戦に出た。文化も環境も違う国に渡って3カ月。「ああやって泥臭く体を張るプレーはドイツで力強くなったと思う」。成長を実感するゴールだった。

 先発のチャンスをモノにしたのは、日頃の積み重ねがあるからだ。ドイツ・マインツにある武藤家の食卓には、炭水化物が最低でも2種類以上並ぶ。ご飯、うどん、パスタ…。体を動かす上で必要なエネルギーを、しっかり取ることが日課。「奥さんが毎日、日本食を用意してくれる。炭水化物をしっかり取れる。だから食事にストレスを抱えることは全くない」。スピードを武器に途中から出て相手をかく乱することもあるが、終盤になっても尽きないスタミナ、連戦でもアウェーでも戦えるタフさが、日々培われている。

 平成生まれが5人先発した、この試合の相手であるイランはアジア杯やW杯予選で、日本に立ちはだかってきた強敵だ。もっとも語り継がれているのは、W杯初出場を決めた97年の「ジョホールバルの奇跡」。しかし「その試合は知っていますけど、ジョホールバルっていうのは聞いたことないですね」。異様な雰囲気の漂うアウェー戦でも、過度なプレッシャーを受けることはなかった。

 同点弾の勢いに乗って2点目のチャンスでは硬くなった。同13分、FW宇佐美からのスルーパスで抜けだしGKと1対1。右へかわしたが、伸びてきた手に阻まれ「いろんな質を上げていかないと」と反省した。それでも1点の価値は不変だ。泥にまみれ、華やかではなかったかもしれないが、日本にとっても、武藤にとっても大きなゴールだった。【栗田成芳】