<柔道:全日本選抜体重別選手権>◇最終日◇4日◇福岡国際センター◇男女7階級

 男子66キロ級で海老沼匡(20=明大)が初優勝し、12年ロンドン五輪のホープに躍り出た。前野との決勝はゴールデンスコア(GS)までもつれたが、大腰で技ありを奪い、合わせ技で1本勝ちした。試合後に発表された9月東京開催の世界選手権の代表に初選出された。同階級は、内柴正人が五輪2大会連続で金メダルを獲得。次世代を担う若手として、日本の黄金の階級を受け継ぐ。

 海老沼が恐怖を乗り越えた。GS開始25秒。先にポイントを奪われれば負けという土壇場の状況から、大腰を放った。1回戦、準決勝と慎重になり、指導でしかポイントが奪えず、ともに優勢勝ちと苦戦。「負けることにおびえていた」。だが意を決して放った投げで技ありを奪い、合わせ技の1本勝ちで初優勝した。

 昨年10月の講道館杯で五輪連覇の内柴から1本勝ちして優勝し、同12月のグランドスラム東京も制した。今大会の前日会見には鈴木桂治、中村美里らと注目選手として出席したが、プレッシャーが弱冠20歳の両肩にのしかかった。「穴井さんが昨日テレビで『プレッシャーを責任と感じるか、幸せに感じるかで違う』と言っているのを見て、自分の気持ちの作り方は下手だと思った」。1月に右足甲を骨折。相手にも研究され、緊張も重なり、いくつもの要因が絡んで慎重な戦いが続いたが、最後の最後で重圧から解き放たれた。

 柔道界では海老沼3兄弟の末弟として早くから注目されていた。次兄の毅は3月に流通経大を卒業。だが進路が決まらず、柔道を続けられるかも分からない状況にある。それでも今大会前にはサウナに一緒に入って、5~6キロの減量に付き合ってくれた。その兄に優勝を報告したかった。

 日本の66キロ級をけん引してきた内柴は進退に悩んでいる状況で、海老沼は軽量級を背負っていく存在になる。首脳陣も世界選手権の金メダルを計算している階級。「思い切りやって優勝したい」。海老沼が66キロ級の新しい星になる。【広重竜太郎】