<スピードスケート:W杯代表選考会兼全日本距離別選手権>◇最終日◇27日◇長野・エムウエーブ

 日本短距離陣に異色の新星が生まれた。男子1000メートルで山中大地(23=電算)が1分10秒67で初優勝を飾った。日本記録保持者の長島圭一郎(31)らを破って、ソチ五輪出場への第1歩となるW杯代表に選ばれた。長野では名門の国立長野高専出身。得意はパソコンを使ってのプログラミングという「理系男子」だ。3年前から女子エース小平奈緒(27)の練習パートナーを務めて急成長した。その小平は女子500メートルに続き1000メートルを制し、5年連続の2冠に輝いた。

 理詰めのレース解析に狂いはない。スケート界では異例の「理系男子」山中は、日本記録保持者の長島をラスト1周でとらえる。最終カーブで一気に差を広げると、そのままフィニッシュした。「長島さんに勝って、すごくうれしい」。日本男子短距離界に、新たな有望選手が誕生した。

 スタートから長島に圧倒的なリードを奪われた。3年前も同じ展開で敗れたが、同じ過ちは犯さない。600メートル付近で、0秒16差に詰めると、最後は逆に0秒21差をつけてゴール。「先行されても、離されないで、最後まで粘っていこうと思った」と焦らず、冷静さを保ち、結果を出した。

 子供のころから理科系科目が好きだった。成績も良く、中学卒業後、国立長野高専に入学。同高専は名門で東大、地元信州大に編入する学生も多い。電子情報工学科ではコンピューターの高度な技術を身につけた。スケートも両立し、2日間徹夜で高校総体に出場し2冠を獲得したこともある。結城匡啓コーチは「パソコンが得意。技術分析を手伝ってもらったことがある」と頭脳明晰(めいせき)ぶりを証言した。

 高専卒業後は、小平の練習パートナーに抜てきされる。世界トップの女子選手と常に一緒に行動を始めて3年。「練習前に他選手の映像を見たり、私生活からスケート第一」とトレーニングはもちろん、生活面から刺激を受けている。オフから食生活を改善した小平にならって、体重は3キロ増の75キロにアップ。体幹も鍛え上げ、安定感あるスケーティングを構築した。

 かつては日本のお家芸に近かった男子1000メートルも、近年は世界から差を広げられつつある。この日、W杯代表にも選ばれた。「12月には五輪代表選考会もある。気を緩めずにいく。まだやるべきことはたくさんある」。頭の中のコンピューターには、ソチまでの道筋が、しっかりと解析されている。【田口潤】

 ◆山中大地(やまなか・だいち)1990年(平2)5月1日、長野県川上村生まれ。小学3年からスケートを始める。川上中3年の全国中学大会3000メートル4位。国立長野高専3年の高校総体1000、1500メートル優勝。世界ジュニア出場。卒業後、信州大職員を経て現在電算所属。趣味は料理。名前の由来は88年ソウル五輪競泳男子100メートル背泳ぎ金メダリストの鈴木大地氏から。176センチ、75キロ。