<大相撲九州場所>◇千秋楽◇28日◇福岡国際センター

 横綱白鵬(25=宮城野)が初の5連覇で激動の年を締めくくった。1敗で並んだ西前頭9枚目豊ノ島(27)との優勝決定戦を送り投げで制し、通算17度目の優勝。昨年に続く歴代最多の年間86勝目に到達し、歴代8人目の5場所連続Vを果たした。双葉山の69連勝に届かなかった無念を引きずりながら、綱の務めを再認識。朝青龍引退や賭博問題で揺れた1年を、使命感で引っ張った。

 白鵬は花道を歩みながら、じっと目を閉じた。勝っても負けても、目を見開く横綱には珍しい光景だった。まぶたの裏では、激動の15日間がめぐっていたのだろうか。吐く息は荒く、それでも今場所初めて会心の笑顔を見せた。

 白鵬

 自分の責任を果たした、それだけです。長い15日間でした。まあ、いろいろ考えさせられましたけど、早い段階で黒星を喫して、立ち直ることができましたし、体と心が1つになることができました。

 先に豊ノ島が1敗を守った。結びを待つ支度部屋でテレビを見ながら、淡々としこを踏んでいた。動揺はない。本割は左上手投げで琴欧洲を圧倒した。6年半ぶりとなる、横綱と平幕の決定戦。館内は「逆に引き締めることができた」という豊ノ島コールが起きた。鬼の形相で両脇を締めて踏み込み、右腕を手繰られそうになりながら、うまく体を引き送り投げ。敗者の肩を軽く抱き、健闘をたたえた。

 心が折れかけた。2日目稀勢の里に力負けし、歴史的連勝は「63」で止まった。負けた日は深夜4時まで眠れず、ともに過ごした紗代子夫人(26)は「ボーッとしてました」。場所前から見ていたのは、心酔する双葉山の69連勝。宿舎では双葉山の銅像とのツーショット写真を枕元に置いて寝ていたほどだ。「傷心」はひどく、69連勝直後に3連敗した双葉山を思い起こし、後援者には「これ以上負けたら休まなきゃ」と弱音を吐いた。

 盤石だった立ち合いすら、試行錯誤した。中盤戦では左へ動き「変化って言われるかな」と気にした。10日目の打ち出し後は、帰りの車で「心と体が1つにならない」。そんな時、かつて座禅を行った興禅寺(横浜市)市川智彬住職の言葉を思い出した。「悩んだり苦しんだりするのは生きている証拠。人間を成長させることから、目をそらしてはいけない。正面から向き合わないといけない」。

 豊ノ島や魁皇、把瑠都が頑張っていた。「賜杯」への欲を起こし、常々言う「千秋楽まで引っ張っていくのが横綱」という自覚を取り戻した。2年連続で年間4敗しかせず、モンゴル相撲で父ムンフバトさん(69)が達成した「5連覇」にも並んだ。

 白鵬

 父に並んで幸せです。今年はいろいろありましたけど、最後の場所を締める強い気持ちでした。私の名前は白鵬翔。来年も名前のように羽ばたければいいと思います。

 朝青龍の引退や野球賭博問題に揺れた、激動の1年。先輩横綱の引退に涙し、賜杯なき表彰式に涙したこともあった。それでも白鵬は肌寒い初場所から春、夏、秋と勝ち続け、背中で角界を引っ張った。充実期を迎える横綱は、負けてまた1つ成長した。【近間康隆】