<大相撲九州場所>◇千秋楽◇28日◇福岡国際センター

 九州場所の3賞選考委員会が28日、福岡国際センター内の記者クラブで開かれた。豊ノ島(27=時津風)は敢闘賞と技能賞のダブル受賞で、08年夏場所以来の敢闘賞、昨年九州場所以来の技能賞と、ともに3度目の獲得となった。

 祭りの後の、西の支度部屋。豊ノ島は、報道陣を通じて、父梶原一臣さん(57)の談話を知らされた。紙に書かれた文は「本当にいい夢を見られた。結果がいいに越したことはないけど、15日間いい夢をありがとう」。これを読み、感極まった。左手で目頭を押さえたが、熱いものがとめどなくあふれた。

 本割で、過去5勝11敗の稀勢の里(24=鳴戸)に勝った。優勝決定戦を見越し、表情は緩めなかった。支度部屋では締め込みをぬらし、きつく締めた。「横綱にまわしを取られたくなかったですからね」。この日だけの特別な仕掛けだったが、力及ばず。西の升席では、両親と一緒に応援していた婚約者・竹内沙帆(すなほ)さん(29)が号泣していた。

 苦しい年だった。野球賭博に揺れ、一時はクビも頭をよぎった。支えてくれた婚約者は「私は、豊ノ島でなく、梶原大樹と結婚する。処分が厳しく、まげを切ったとしても、一緒になるつもりでした」と振り返る。あれから約5カ月。4年10カ月ぶりの日本人優勝はならなかったが、胸を張れる準優勝だ。

 豊ノ島は「自分の浅はかな考えで、協会やファンに迷惑をかけた。そういう意味でも、失った信用を少しは取り戻せたかなと思います。また相撲を見て、面白いと思ってくれるファンが増えればいいと思います」と言った。期せずして起きた、決定戦での「豊ノ島コール」に、観客の思いが込められていた。

 来場所は、3役復帰が期待される。新たな日本人大関誕生を待つ声は多く「そういう気持ちをもってやりたいですね」と、前を向く。来年6月11日に、都内で挙式・披露宴を予定する。幕内最少169センチの体に、大きな夢がふくらんだ。【佐々木一郎】