昭和の大横綱が、世界の本塁打王から惜別の言葉を贈られた。史上最多32回の優勝を誇る第48代横綱大鵬の納谷幸喜さん(享年72)の通夜が30日、東京都青山葬儀所で営まれ、約1000人が死を悼んだ。同い年で現役時代から親交のあった王貞治氏(72=ソフトバンク球団会長)が弔辞を読み、参列者の涙を誘った。葬儀・告別式は今日31日、同所で行われる。

 遺影の大鵬さんは、ほほ笑んでいた。相撲博物館館長だった60代前半のころ、スーツ姿で撮った写真を、芳子夫人(65)が選んだ。寒空のもと、角界の内外から約1000人が通夜に足を運んだ。弔辞を読んだのは、誕生日が9日違いで、親交の深い王さんだった。

 王さん

 「巨人、大鵬、卵焼き」と言われました。あなただけ個人です。それだけあなたが偉大な存在だったかを物語っています。私は常にあなたを追いかけて、目標にして戦ってきました。ひそかに自分の中では、同じ1940年に生まれた、あなたとニクラウスと私で、「巨人、大鵬、卵焼き」に対して「大鵬、ニクラウス、王貞治」と胸の中では常に思っていました。その仲間の1人であるあなたがこのような形で旅立ってしまったというのは本当に悲しいです。

 王さんは原稿を持たず、遺影に目を向け、9分50秒にわたり、語りかけていた。芳子夫人は、贈る言葉を聞きながら、目を潤ませた。「胸がいっぱいになって、涙が出ました。一言お話いただけるかと思ったら、いっぱい話してくださった。親方(大鵬さん)も、何かと言うと王さんでしたから…」。

 1961年(昭36)、ともに世話になった吉田接骨院で知り合った。ある年の正月、王さんの家で飲んだ2人は、酔っぱらって大の字になって寝た。王さんは「本来の自分になって話ができた」と振り返り、芳子夫人は「あの時、私もいたんですよ」と思い出話を懐かしんだ。

 祭壇には前日29日に授与された正四位や旭日重光章、天皇陛下からの香典にあたる祭粢(さいし)料も飾られた。焼香は12カ所設けられ、それぞれに大鵬さんの在りし日の写真が飾られた。参列者のそれぞれが、大横綱との思い出を胸に、手を合わせた。

 身長187センチの大鵬さんに合わせて作られた特注の棺(ひつぎ)には、愛用の品々が入れられた。雪駄(せった)、ツゲのくし、白地に紺で「大鵬」の刺しゅうが入ったガーゼのハンカチ、「夢」の字が入ったバスタオル、そして9人の孫からの手紙-。1つ1つに、家族の愛がたっぷり込められた。

 戒名は「大道院殿忍受錬成日鵬大居士」。生前に好んだ「忍」、しこ名の「鵬」などが入れられた。今日31日の告別式後、大鵬さんは両国国技館などゆかりの地をめぐり、天国へ旅立っていく。【佐々木一郎】

 ◆主な参列著名人

 王貞治(野球)ドルゴルスレン・ダグワドルジ(元朝青龍・相撲)北の富士勝昭(相撲)第35代木村庄之助(相撲)舞の海(タレント)長島昭久(政治家)鈴木宗男(政治家)内館牧子(作家)平尾昌晃(作曲家)コシノジュンコ(ファッションデザイナー)永島敏行(俳優)龍虎(俳優)十勝花子(女優)見栄晴(タレント)※敬称略、順不同

 ◆告別式予定

 今日31日午前10時から東京都青山葬儀所で。横綱白鵬とユニセフ親善大使で女優の黒柳徹子が弔辞。出棺後は慶応大学病院→両国国技館→二所ノ関部屋→大嶽部屋→北の湖部屋→ロイヤルパークホテルを経由し町屋斎場へ向かう。