欽ちゃんが、ホロリ涙の泣き笑い劇場で、ユニホームを脱いだ。今季限りで勇退する茨城ゴールデンゴールズ(GG)の萩本欽一監督(69)が12日、神奈川・平塚球場でレッドソックス松坂大輔投手(30)率いるサムライと、監督ラストマッチを行った。4年連続5度目の対戦に15-12と勝利し、新監督に就任する片岡安祐美(24)にバトンを託した。球界再編騒動、社会人チームの休廃部など、暗く沈んだ野球界に明るい話題を提供した欽ちゃん。この日で役目に一区切りをつけたが、最後はサムライの一員として、来季の電撃復帰宣言まで飛び出した。

 欽ちゃんのラストマッチは快晴だった。イベントでは雨には無縁という、晴れ男の節目に、1万2000人が集まった。試合後、マウンドで号泣する片岡新監督の言葉を、花嫁の手紙を聞く父のような表情で聞き入った。「急に辞めるって言い出して、今日が本当に最後だなんて、信じたくないし、受け入れられない…サヨナラって言葉は言いたくない。ちょっと行ってらっしゃい…」(片岡)。

 欽ちゃんの目は潤み、声が少し震えた。「こんなかわいい安祐美を見たのは初めて。ちょっとお休みです、サヨナラ」。トレードマークの背番号「55」が入ったユニホームを手渡して、監督交代のタッチを交わした。

 最後まで欽ちゃん劇場だった。大リーガー松坂も、この日ばかりはさすがに脇役。得意のマイクパフォーマンスで沸かし、9回2死からは代打に立った。タレント上地雄輔が投げたボールにかろうじて当てると、欽ちゃん走りで一塁に到達。へたり込んだ。

 「つらいこともみんな楽しいことに変えて、120%野球を楽しめました」。球団設立を表明した04年、野球界は近鉄とオリックスの合併による球界再編騒動に揺れた。不況のあおりを受け、社会人では休廃部が相次いだ。大好きな野球界を明るくしたい。それが一番の願いだった。

 試合中にマイクを使い、観客や審判を「いじり」笑いを生み出した。毎年2月の宮崎・日向キャンプでは関係者と夜明けまで、次の「何か」を議論した。社会人野球界に飛び込み、プロとの対戦、全米進出…。今までの球界にないチャレンジを続けた。日向・大王谷公園野球場には炊飯ジャーを持ち込み、あじの干物で昼食をとった。観衆が数十人でも、野球のためならマイクを握って全力で笑わせた。

 06年には遠征中に起きた所属選手の淫行でチームを解散した。「野球を辞めなきゃいけなくなった時、署名運動とかで、欽ちゃんやれよって。大変な時に支えてくれた」。ファンの声で活動再開を決意。笑いに強さを兼ね備え、翌年クラブチーム日本一に駆け上がった。欽ちゃん球団は「夢列車」だった。

 試合後は松坂ら、両チームの選手の手で4度、宙を舞った。

 「最後お客さんに帰ってこいって言われて『うん』って言っちゃったの」。松坂から「これから1年間休んでもらって、来年はこっちのユニホームを着て、出てもらおうかなと」と言われると、すぐに反応。「それならすぐ着て出てくるぜ。ゴールデンゴールズやっつけよう。それなら飛んでくるよ。大輔君ありがとう」。

 号泣していた片岡は「えーっ、そっち(のチーム)」。近い将来、きっと野球に帰ってくる。すっかり涙は乾き、いつもの笑いが広がった。【前田祐輔】