人事を尽くして天命を待つ。10月26日のドラフト会議。西武渡辺SDは1位指名したJR東日本・田嶋大樹投手(21=佐野日大)との交渉権をオリックスとのくじ引きの末、逃した。09年に菊池、10年に大石を6球団競合の中で引き当ててきたが、そのパワーの再現はならず。「残念だけどね。いろいろ仕込んだけど、ダメだった。もうゴッドハンドって言われなくなるから楽になるよ」。悔しさを押し殺しながらも、その表情には納得感もにじんでいるように見えた。

 背広の左胸の内ポケットにはお守りを入れていた。田嶋の母校、佐野日大と同じ栃木・佐野市内にある佐野厄よけ大師で購入したもの。お参りに訪れたのは、台風21号が関東地方に上陸した今月23日だった。雨の中、渡辺SDたった1人の境内。入団を静かに願った。帰り道には佐野日大に向かい、正門の前でも手を合わせた。

 そしてドラフト前夜。スカウトとの食事会の席に持ち込まれたお酒は、大吟醸「大樹(だいじゅ)」だった。読み方こそ違うが、田嶋の名前と同じ漢字の銘柄を探し、用意していた。

 意中の選手を射止めるために1人お参りし、験を担いだ。25日の編成会議後、どんな験担ぎをするのか質問したが、「いろいろ。ご想像に任せします。(言うと)御利益がなくなるかもしれないから」と明かさなかった。結果は残念だったが、やれることはやったという思いがあるから「縁がなかったね」と受け止められたのかもしれない。

 今年、西武の縁は外れ1位で単独指名した明大・斉藤大将投手(4年=桐蔭学園)とあった。若き野球選手たちのプロへの道が開かれるドラフト。指名される側だけでなく、指名する側にも、数々のドラマがある。【西武担当 佐竹実】