引退セレモニーを終えファンに両手を広げあいさつする渡辺直(撮影・滝沢徹郎)
引退セレモニーを終えファンに両手を広げあいさつする渡辺直(撮影・滝沢徹郎)

<楽天4-2西武>◇6日◇楽天生命パーク

楽天渡辺直人内野手兼任打撃コーチ(40)は自らの希望で「1番DH」で西武戦にスタメン出場。

バットでは4打数2安打。先制のホームにヘッドスライディングで飛び込むと9回には遊撃の守備につき、遊ゴロ併殺を完成。東北に愛された男が、寒空の杜(もり)の都で走攻守に輝いた。

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2011年6月8日。横浜(現DeNA)の「2番二塁」で渡辺直人の名前がコールされると、Kスタ宮城は拍手と大歓声に包まれた。楽天から移籍後初の古巣本拠地での公式戦。打席に立つごとに「直人!」の声援が球場全体から飛んだ。

「鳥肌が立ちましたよ。うれしいですし、ありがたいです」。試合は敗れ、自身も無安打。感謝と同時に悔しさをにじませながら、続けて言った。「これからの、いい意味でのプレッシャーになりますよね。だって結果を残していかないと、この声援だって、きっとなくなる。試合に出るからこそ、違うユニホームを着ていても、今日のような声援をもらえる。忘れられないように、楽天ファンに嫌がられるくらい、活躍しないとダメでしょ」。

あれから9年。プロとしての第1歩を踏み出した楽天に再び戻り、2020年11月6日、引退試合を迎えた。横浜、DeNA、西武時代も含め、突出した記録は残せなかった。しかし14年間、チームは変わっても、第一線で、目指した“一流の脇役”として存在感を示し続けた。

2011年6月8日の観衆は1万7982人。2020年11月6日の観衆は、コロナ禍の規制で8271人だった。それでも、渡辺直にとって、この日の拍手と歓声は、超満員でのそれ以上だったに違いない。有言実行。だから、仙台のファンはずっと、渡辺直人を忘れなかった。【佐竹実】

引退セレモニーを終え長男と場内1周する楽天渡辺直(撮影・滝沢徹郎)
引退セレモニーを終え長男と場内1周する楽天渡辺直(撮影・滝沢徹郎)