23番を凝視した。見慣れないはずの色合いも、似合っている。オリックスから国内FA権を行使し、日本ハム移籍が決まった伏見寅威捕手(32)が24日、札幌市内で入団会見に臨んだ。

ビシッと決めたスーツ姿から青と白のユニホームに変身。会見に同席したBIGBOSSからポーズを求められると笑みが弾けた。12年ドラフト3位で指名されてから、オリックス在籍は10年。日本一の歓喜を味わった直後の決断だった。

伏見との出会いは19年オフだった。記者が阪神担当からオリックス担当になった11月。担当初日の大阪・舞洲で、名刺を手渡した。その頃、左足アキレス腱(けん)断裂からの復帰を目指していた伏見は、毎日リハビリ生活を送っていた。

仲間がグラウンドで自主練習を行っていても、風のない室内練習場で椅子に座ったままネットスローを繰り返す。緑のネットに白球が集まると、自力で拾っていた。ボール集めを手伝うと「ありがと! ここに来る前は何してたの? 仕事、楽しい? 彼女いるの? 野球やってたことある?」など、笑顔でクエスチョンをぶつけてくれた。取材記者はこちらだというのに、会話を広げてくれる、記者より4歳上の兄貴分だった。

仕事でありながら、伏見の気遣いに胸を弾ませていた。寒空のボール拾いが心から楽しかった。20年の春季宮崎キャンプ。1軍選手の取材を終えると、自然とファームに足を運ぶことが多くなった。球場が真横ということもあるのだが、やはり進捗(しんちょく)状況が気になった。

「こっち(2軍)を見に来ても、記事になんねーよ! あっちでエースの投球、しっかり見てこいよ…」

サングラス越しに笑っている。互いに照れるしかない沈黙の数秒間が、今や思い出になった。

リハビリ期間中、失意の中にいた。「本当に先が見えなかった。野球、またできるのかな…って。毎日、不安はあったよ。チームとは別行動。広いウエートルームで練習しているのは、自分ただ1人。ものすごく寂しかったね」。

そうコメントしていたので、その通りにコラムを書くと「おい、元気ないみたいじゃないか! 俺はめちゃくちゃ元気だぞ!」と笑いを誘い「書いてくれてありがとう。新聞には載らないよな、今の俺の心境は…」とグータッチで認めてくれた。当コラム「四季オリオリ」の第1回に登場したのは企画提案者の伏見だったのは言うまでもない。

そんな時期を知っているからこそ、昨季の悲願V、さらには今季26年ぶり日本一が身に染みた。2年連続でマジックが点灯しない僅差での大逆転Vに「モチベーションって大切だからな! 良い記事を書いてくれたおかげで3勝は上積みできているよ!」。リップサービスとわかっていても胸に刺さる言葉だった。

記者にも温かい言葉をくれる伏見は、ユニホームの色が変わっても、プレースタイルや面倒見の良い性格は変わらないだろう。日本ハムへの移籍が完全決定してから、話す機会があった。「けん! 俺らの関係はいつも通り仲良くいこうな!」。じわっときた。記者冥利(みょうり)に尽きた。【オリックス担当=真柴健】

日本ハムのユニホームに袖を通し新庄剛志監督(左)とポーズをとる伏見(2022年11月24日撮影)
日本ハムのユニホームに袖を通し新庄剛志監督(左)とポーズをとる伏見(2022年11月24日撮影)
日本ハムのユニホームに袖を通し新庄剛志監督(左)とポーズをとる伏見(2022年11月24日撮影)
日本ハムのユニホームに袖を通し新庄剛志監督(左)とポーズをとる伏見(2022年11月24日撮影)