決して弱音を吐かない闘争心の持ち主である。しっかりした考えの持ち主でもある。この精神力と優れた野球センスがかみ合って一時はレギュラーポジションをつかみかけた。阪神において絶対的なショート鳥谷を追いやる1番手として期待されたのは、北條史也内野手だった。本来ならひのき舞台で暴れ回っていてもいい存在かと思えたが、やはり力不足。今シーズンは開幕から2軍スタート。目下、ウエスタンリーグの全試合に出場して頑張っている。

 鳴尾浜球場で見たオリックスとの2試合(中日が雨で中止)では、ゲームを決める2ランホーマーがあれば、四球あり。翌々日には追加点を奪うチャンスにつなぎ役の右前打を放って説く得点に結びつけた。北條にスポットを当ててみる。

 今季の成績に目を通してみると、49試合に出場。168打数、39安打。打率は.232。本塁打は3、打点は26。ファームである。1軍を経験している選手にしては物足りない数字。力不足は否めない北條には現状を見直す時がきているように思える。自分に足りないもの。磨きをかける必要があるもの。自分を売り出すテーマ等々再確認をすることだ。矢野監督は「最近、右方向にもヒットが出るようになって、広角に打てるようになっている。なんとかしないといけない選手の一人ですが、ちょっと、これといった特長がねえ…」と見ている。

 確かに特長となると乏しい。バッティングにはまだまだ成長の余地はあるが、打球を遠くに飛ばせる長距離砲ではない。足が速いわけではない。守備が抜群にうまいわけでもない。しかし、無いからといって指をくわえて、ただじっとしているわけにはいかない。ならば、成長の糸口は、どこで、何をして、どうつかんだらいいか。北條は「やっぱりもっと打たないといけませんね。今、2割そこそこですから。何とか2割7、8分まで上げていきたいです。野球に四球は大変必要なものですが、自分をアピールするとなるとやはり四球より打つことでしょう」もう今年で6年目。自分の置かれている立場はよくわかっているようだ。

 この際、他チームから嫌がられる“クセ者になれ”と言いたい。幸いにも北條にはクセ者になれる要素はある。勝負強さはチームで1、2を競う打点が証明している。ツボへくれば一発長打もある。また、相手のスキをつくずる賢こいとこらがあれば、計算したうえでのしたたかな一面を持ち合わせている。必要以上に粘っこくなれ。もっと、もっとしつこくなるといい。本人に「どや、相手に『アイツの顔をみるのも嫌だ』と言われるぐらい嫌がられる選手になってみたら」と向けてみると「嫌がられる選手ねえ…。うーん…」いつまでもうなってはいたが、表情はまんざらでもなさそうだった。

 弱音は吐かない男。プロ向きの性格である。ひ弱だった入団時の体は、プロで生き抜くための体を目指して、食事ではじっくりと十分に時間をかけて黙々と食べ続けた。結果今や、体はひと回りもふた回りも大きくなった。技術の向上のみならず体力面でもプロとしての体作りに成功した。そして、特長のない選手とは言うものの、素晴らしい一面を持っている。選球眼である。今季も四球はすでにチームトップの40個を選んでいるが、ウエスタンでは2年目、リーグ最多の52個を選び、翌年も46四球を選んでいる。北條の「捉えないといけない球を打ち損じでファウルにしての四球もありますから…」はさらなる向上心のあらわれ。目立たないところでのアピールだが、これを首脳陣がどう評価するか。

 矢野監督いわく「いや、金本監督は結構四球を重視する人ですから」という。いずれひのき舞台に出てくる選手だ。【本間勝】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「鳴尾浜通信」)