甲子園球場はわずか1日で驚くほど秋の雰囲気になった。日差しは強いが肌に感じる風は心地よい。試合前、球場周辺をブラブラしていると“特攻服”に身を包んだ女性ファンが目に留まった。「生涯鳥谷敬命」と、刺しゅうがズボンの部分に入っている。

鳥谷は今季限りで阪神を退団し、現役続行を模索している。もしセ・リーグの他球団に行ったらどうします。取材とも言えないそんな質問をしてみた。

「え~。応援しますよ。阪神も応援するけど鳥谷さんが打つときは鳥谷さんを応援します!」。明るい表情でキッパリ話してくれた。ファンはありがたい。

試合は最下位ヤクルト相手にある意味、今季ワーストと言える内容となった。1試合落とすごとに何の希望もなくなる状況で、なぜ、こういう展開になるのか。全部勝てるはずはないが、それにしても見ているのがつらかった。

驚くのはこの試合に集まった観衆の数だ。4万701人。4位と6位。はっきり言って両軍のファン以外には特に意味のない試合だろう。西武とソフトバンクの首位攻防戦は2万4660人と発表された。もちろん収容人員数の違いはあるが、冷静に考えると、これは途方もないことだ。

注目の鳥谷は8回、代打で登場した。スタメンではなかった。もちろん現状では当然だろう。指揮官・矢野燿大はチームとして戦い、上位を狙うと表明している。ここまでほとんどスタメンで使わなかった鳥谷をここに来て起用するのは道理が通らない。

しかし。こんな試合になってしまうのなら鳥谷をスタメンで出せばいいではないか、とさえ思ってしまう。少なくともファンが喜ぶことだけは間違いない。

だけど書いておいて言うのもおかしいのだが、それはできないはずだ。チーム内の競争の結果、こういう状況になっているのだから。鳥谷がそれに納得しているかどうかは別にして。

順位がハッキリするまで、そういう日は来ないはず。大事なのは試合に出ている木浪聖也、北條史也といった顔ぶれがしっかり打つことだ。

ヤクルトからすれば今季負け続けた阪神に最後の3連戦で勝ち越し。せめてもの意地を見せた形だ。阪神は13日から中日、巨人と敵地4連戦。今季、苦杯をなめ続けた2球団に対し、同じように踏ん張れるか。ファンの期待はそこにある。(敬称略)