近本光司に始まり、近本に終わった3連戦。勝手にそう思っている。9回、一打同点の場面で途中出場の近本は一ゴロに倒れてゲームセット。1点差まで詰め寄った試合の幕引き選手となった。それでも公式戦ならカード勝ち越し。上々のオープン戦発進だろう。

3連戦の最初、うなったのは近本の速さだった。5日の第1戦。1番中堅でスタメンの近本は3回、ソフトバンクの開幕投手・石川柊太から右前打。そして次打者・糸原健斗の打席で、すかさず二盗を決めた。

捕手は「甲斐キャノン」で知られる甲斐拓也だ。タイミングは間一髪だったがセーフ。セ・リーグ2年連続盗塁王の速さを見せた。甲斐で思い出すのはやはりソフトバンクと広島が戦った18年の日本シリーズだ。6試合の激闘をソフトバンクが制したこの戦い、甲斐は実に6度までも広島の仕掛けた盗塁を阻止している。この働きでMVPに輝いたのは虎党でも知るところだろう。

上本崇司、鈴木誠也、田中広輔、安部友裕とそれぞれスピードに自信のある広島の選手たちが次々に刺されていく。本当にマシンのようだった。第1戦で最初に刺された俊足の上本は「あれは無理ですね…」と諦めの境地だった。

興味深かったのでシリーズ途中に甲斐に少しだけ話を聞いた。「自分は強肩だと思っていませんけれど二塁ベースの上にきっちり投げるのを心がけています」と照れくさそうに話したのを思い出す。

そんな甲斐からズバッと盗塁を決めた近本。3戦目のこの日、1点差にした展開にも影響したと思う。ソフトバンクは6回から2番手の二保旭が登板。1死から主砲・大山悠輔が中前打を放ち、その代走で近本が登場した。

点差もあるがオープン戦だし「走るかな」と見ていると陽川尚将が2ラン。二保は調子がよくなさそうだったが走者の近本を意識していた可能性は高い。8回にも近本をいやがって歩かせ、そこから無死満塁の危機をつくっていた。

俊足選手が投手にプレッシャーを与えるのは常識だ。だが当たり前のようにそれができている近本はやはり一流だろう。本塁打が目立った3連戦だったが真剣勝負で効いてくるのはこういう存在だ。気が早過ぎると笑われるだろうが今秋の日本シリーズで「近本VS甲斐」が実現すれば、これは面白い。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)

ソフトバンク対阪神 6回表阪神1死一塁、2点本塁打を放った陽川(左)をゴリラポーズで迎える近本(撮影・前田充)
ソフトバンク対阪神 6回表阪神1死一塁、2点本塁打を放った陽川(左)をゴリラポーズで迎える近本(撮影・前田充)