高校野球ではないのだから「善戦」とか「惜敗」という言葉はあまり使いたくない。だけどこの日ばかりはその戒めを破りたい気持ちになってしまった。1点差で負けたこの試合。今後につながっていく戦いだったと思う。

佐藤輝明に記念弾が飛び出たことだけがその理由ではない。攻守とも、多くの場面で指揮官・矢野燿大が理想とする「全員野球」「一丸野球」のイメージが明確に表れていたからだ。

まず投手陣だ。4月23日DeNA戦以来の先発となった藤浪晋太郎は力みもあったのかピリッとしなかった。粘りも見せたが5回途中4失点で敗戦投手に。くしくもその試合と同じ展開で相手も同じ坂本裕哉だ。

だがブルペン陣は踏ん張った。馬場皐輔から岩貞祐太、石井大智と7回まで無失点。若い及川雅貴こそ誤算で8回に失点したけれど6番手・斎藤友貴哉が大量失点を防いだ。

そして攻撃面である。最初のチャンスは4回だった。近本光司、糸原健斗でつくった無死一、二塁。ここでクリーンアップに回るとなればまずは主軸が打つのを待つだけだろう。そこで結果は出なかった。

一転したのは5回だ。佐藤輝が安打で出ると6番ロハスとの間でエンドランを敢行。ロハスは左翼線を破り、佐藤輝は生還した。ベンチの策で1点をもぎとったと言える。

7回には出番の少ない北條史也が代打で出たが妙な色気は見せず、しっかり四球を選んだ。このつなぎもあって梅野隆太郎の適時打で1点を返すことに成功した。3割を打てば称賛されるように打者はいつも打てるわけではない。そんな中でうしろにつなぐ姿勢を含め、選手もベンチもやれることをやった展開だった。

「優勝するチームでも60敗はする。いい60敗をしたい」。いつも書くけれど監督就任時に矢野はそんな話をしていた。そのときは「ふうん」と思ったが常に全力で戦う若いチームに生まれ変わった阪神を見て、そのセリフを思い出す。この姿さえ続けば、簡単に沈んでいくことはないはずだ。

あえて書けば、やはり藤浪だろう。彼の先発を意図してかどうかは分からないが、みんながこの試合を勝とうと懸命だった。負けた責任は当然、感じているはず。次のチャンスがあれば「今度はオレが勝たせる!」という強い意志をもって“復活”への引き金にしてほしい。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)