梅野隆太郎の阪神残留が正式に決まり7日、晴れやかな表情で記者会見に臨んだ。

「この阪神タイガースで優勝したい」。そう言った梅野の言葉にウソはないと思うし、何より、多くの虎党にとってホッとする出来事だったのではないか。

新たに3年契約でサインし会見する梅野隆太郎(撮影・加藤哉)
新たに3年契約でサインし会見する梅野隆太郎(撮影・加藤哉)

シーズン終盤、ベンチの起用法などを見て「梅野流出」の可能性を感じていたファンは少なくないかもしれない。もちろんFAは選手の権利だし、行使するのも自由。それでも虎党の気持ちはそうドライではないと思う。本音を言えば、こちらも同じである。

育成が難しいとされる捕手のポジション。そこに生え抜きで入団し、今季は逃したとはいえ、ゴールデングラブを獲得するまでに成長してきた。明るい性格でファンに愛されている。こんな選手がFAであっさり出ていけば「だからあかんねん…」という話になったことは想像に難くない。

「FA宣言せずに複数年契約で残留」というスタイルも阪神では結構、めずらしいことではないか。独断と偏見で言えば、これは「広島スタイル」だ。

かつて巨人、阪神などに比べて金銭的に不利だった広島はFA権を取得した有力選手とFA宣言せずに複数年で契約する形を好んだ。マネーゲームを防ぐのと同時に家族的な経営を印象づけるスタイルだった。

「めずらしいと言われればそうかもしれません。だからと言って今回のケースが今後も…となるかどうかは分からない。とにかく礼を尽くしたということです」。球団幹部はそんな説明をしたが、なかなか味のある着地だった気はする。

いずれにしても少し首を傾げたのは指揮官・矢野燿大の起用法だ。捕手出身の矢野はもともと「現在のプロ野球は1人の捕手だけで戦える時代ではない」という考えの持ち主。だからこそ昨季、開幕の巨人3連戦で“日替わり捕手”を取ったりした。

CSファーストステージの巨人戦でベンチスタートとなった阪神梅野(中央)
CSファーストステージの巨人戦でベンチスタートとなった阪神梅野(中央)

それが今季は一転、終盤まで梅野一点張り。それが梅野に疲労が見え、勝負強い打撃も不振に陥ると今度は坂本誠志郎のスタメンマスクを続けた。用兵は指揮官の専権事項ではあるが虎党には「どうした?」といぶかしく思う光景に映ったのも事実ではないか。

梅野、坂本の2人に加え栄枝裕貴ら、なかなかレベルの高い捕手のいる阪神。シーズンを通して最大限にその効果を発揮できるかどうか。そこに梅野残留の“真価”が問われると思う。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)