「スグルでもあるし、それは受け止めています」。クローザーの岩崎優が打たれての逆転サヨナラ負けに指揮官・矢野燿大はそう言った。それはそうだろう。岩崎だって打たれるときはある。勝負は相手のあるもの。常に抑えられるはずはない。打者だって打てないときは打てないのだ。特にいまの阪神打線は相手投手がしっかり投げてくればなかなか打てない状態だし。

それは分かる。分かっているのだが、どうもモヤモヤが残る試合ではあった。最後の場面。技術的な面はあまり書きたくないが岩崎はいつもと比べて制球がよくなかったのは間違いなかった。3番からの山田哲人にいきなり四球というのはいかにもイヤなムード。

さらに誰が考えても本塁打がこわい4番・村上宗隆への初球が高め真っすぐで、これをとらえられる。「サヨナラ被弾か」と思ったが左翼フェンス際で失速した。それでも危機は広がって最後は1死二、三塁の場面。ここで打席にオスナを迎えた。

打率2割そこそこと不振のオスナ。打順も7番である。岩崎にすれば抑えられる相手と見てもおかしくはない。しかし得点の入りやすい「1死二、三塁」は、あの流れにあってはイヤな気がしたし、特にこの日の岩崎の状態である。ここは満塁策を取るかなと思ったがそうはしなかった。抑え投手への信頼といえばそれまでだし、満塁策を取ったとして結果がどう出たか、それは分からないけれど「手は尽くしたのだろうか?」という気はする。

サイスニードの前に打線が湿った試合だ。佐藤輝明、大山悠輔、そして糸井嘉男が完全沈黙する中、ベンチは懸命に動いた。6回、近本光司が四球で出た後のエンドラン。8回には代打・高山俊がこれも四球を選んだ後、代走・熊谷敬宥に勝負の盗塁を狙わせた。

いずれも失敗に終わったがそれは仕方がない。なかなか走者の出ない展開でなんとか局面を切り開こうとしたのは認める。だからこそ最後の場面はもう少し、粘っこく取り組むことができなかったのかと感じてしまった。

いずれにせよ「これで勝てれば相当、流れが来ているかも」と思っていたのは事実だ。打線は機能しないわ、長いイニングが必須条件の「火曜の先発」だった西勇輝も84球であっさり降板するわ。これで勝てれば大もうけ…だったが、やはり甘くないということだ。(敬称略)

【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)

ヤクルト対阪神 9回裏ヤクルト1死二、三塁、オスナにサヨナラ右犠飛を許す岩崎(撮影・菅敏)
ヤクルト対阪神 9回裏ヤクルト1死二、三塁、オスナにサヨナラ右犠飛を許す岩崎(撮影・菅敏)