「炎の中継ぎ」と称された元ダイエー投手の故藤井将雄氏(享年31)をOBに持つ唐津商が、優勝候補の佐賀商を下し11年以来、5年ぶり5度目の優勝を飾った。小学校時代、藤井氏の冠をつけた野球教室や大会を経験し、遺志を継ぐ選手らの活躍で15安打16得点の大勝。85年、当時2年生だった藤井氏を擁した夏決勝で2-13の大敗を喫した佐賀商に借りを返した。

 唐津商が「藤井魂」で昨秋、今春の県大会を制した優勝候補を打ちのめした。2回に野選と失策で2点を先制した後の2死一、二塁。主将でもある1番・井上樹希也外野手(3年)が左越え2点適時打を放った。井上は小学校の時、がんで亡くなった元ダイエーの故藤井氏の冠をつけた軟式野球大会や野球教室に参加歴があった。同教室に参加していた2番・山崎遥稀内野手(3年)も7回2死一、二塁で右越え2点三塁打を放ってみせた。

 ノーシードで迎えた今夏は、井上主将が「夏前は1回戦負けするかと思った」とチーム状態が上がっていなかったという。だが初戦の杵島商との2回戦から投打がかみあい、準々決勝まで快進撃を続けた。最大の難敵との決勝は吉冨俊一監督(33)が「こんなの見たことがない。練習以上の力を発揮してくれました」と驚く15安打16得点の猛攻ぶりだった。

 吉冨監督は85年、故藤井氏を擁しながら夏の決勝で大敗を喫した佐賀商戦に触れ「縁あって藤井さんの同級生だった父を持つ部員もいる。思っているところがあったのかな」とリベンジの思いを明かした。龍谷部員の喫煙火災による準決勝辞退で決勝に進み、指揮官は「1試合1試合、目の前の試合だけを考えなさい」と訓示していた。

 24日に故藤井氏と同級生だった父大一郎さん(47)と墓前にお参りし、出場機会はなかったがベンチから声をからした伊藤駿也投手(3年)は「藤井さんのためにと思っていた。勝たせてくれたと思います」。井上主将は「活躍された先輩がいる。伝統を守り、後ろの世代に伝えたい」と胸を張る。「炎の中継ぎ」と称された元ダイエー戦士は、天国でたくましいナインの活躍に目尻を下げているに違いない。【菊川光一】

 ◆唐津商 1917年(大6)開校の私立唐津商業補習学校を前身とする公立校。生徒数は477人(女子253人)。野球部は34年創部。部員数52人。甲子園は春2度、夏は5度目。主なOBに元ダイエー投手の故藤井将雄氏、元DeNA北方悠誠ら。所在地は唐津市元石町235の2。大坪郁弘校長。

◆Vへの足跡◆

2回戦3-0杵島商

3回戦7-3神埼清明

準々決勝5-1神埼

決勝16-5佐賀商