平成元年の1989年春に優勝した東邦(愛知)が、平成最後の甲子園優勝に王手をかけた。7回裏に7番吉納翼外野手(2年)が3ランを放てば、エース石川昂弥主将(3年)は143球で2失点完投勝利。明石商(兵庫)を退け、春30年ぶりの決勝進出を果たした。相手は、千葉県勢初のセンバツ制覇を目指す習志野。ともにセンバツ単独最多となる56勝目、5度目Vがかかる決勝で、平成を彩ってきた強豪が偉業に挑戦する。

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ぐんぐん伸びた白球が左中間のスタンドに弾む。吉納の打球を、ベンチ前で祈るような表情で見ていたエース石川が両腕を突き上げた。試合を動かした吉納は雄たけびを上げながらベース1周。先輩たちからの愛情たっぷりの抱擁に酔いしれた。

「あれだけの大人数に囲まれたのは初めて。うれしかった」と吉納はかみしめた。0-0の7回2死一、二塁で飛び出した値千金の3ラン。昨秋、右手有鉤(ゆうこう)骨の骨折で悔しい思いをした2年生が、エース対決にケリをつけた。森田泰弘監督(59)も「本当、よく打った。見事です」と会心の表情だ。

好投手の中森に対し、7回から「外角1本」の指示が出ていた。左方向への長打が持ち味の吉納が外寄りの直球をジャストミートした。今大会、力みが目立った吉納は前日の5番から7番に下げられていた。石川ばかりが目立つ中で日替わりヒーローも誕生した。

8回には敵失で追加点。一塁手からの送球が走者に当たり、外野に転々としている間の得点だった。まるで89年、平成最初のセンバツ決勝のサヨナラシーンのよう。当時はコーチで、バックネット裏から歓喜した森田監督は「あれを思い出しましたね」。流れは「春の東邦」に来ている。

史上最多に並ぶ春55勝に到達。愛知県勢の甲子園300勝の節目もゲット。そして5度目のセンバツ頂点を奪えば単独最多に躍り出る。ビッグタイトルまであと1勝。平成最後の凱歌(がいか)へ突き進む。【柏原誠】