高校野球の強豪校とアフリカ・ジンバブエ代表の監督を兼務する異色の指導者が岡山にいる。

おかやま山陽の堤尚彦監督(47)。同国から選手を迎え入れてまで強化に心血を注いできた。なぜ、ジンバブエなのか。堤監督には日本野球復活の強い思いがあった。

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堤監督が話す英語に興味深そうに聞き入る。20歳前後の「少年」たちとの会話は野球や生活の悩みから下ネタまでさまざま。今年3月、おかやま山陽で3人のジンバブエ選手が練習を積んだ。3人とも東京オリンピック(五輪)の同国代表候補だ。

同国から選手を呼んだのは昨夏に続いて2度目。堤監督が監督を兼務するジンバブエ代表は、4月下旬から東京五輪出場をかけたアフリカ予選に臨む。堤監督も一時的に高校を離れて五輪予選に専念する。

「野球には負ける原因が4つある。そのうち2つが起きるとほぼ失点になる」。与四死球、失策、不運な安打、ルールの誤解。投げて、打つだけの競技と思っていた彼らも野球の奥深さを堤監督から毎日教わった。センバツを控えた高松商などを相手に投げて、自信を膨らませて帰国した。

堤監督とジンバブエとの関係は95年から。アフリカの野球事情に触れる機会があり一念発起。青年海外協力隊として現地にわたった。野球道具の提供先はアフリカや中南米など27カ国におよぶ。「継続」を重視して06年におかやま山陽の監督となってからも関係を続けてきた。昨年、ついに代表監督に就任した。

強豪校の監督との兼務は過酷。代表の仕事は、ほぼボランティア。球界発展を心から願うからこそ兼務できる。ただ、24年パリ五輪種目から野球は外れることが決まっている。

「野球は世界ではマイナー。五輪種目にない競技に子どもが夢を見られますか。今、野球人気の低迷が少子化などと結びつけられていますが、そうではない。ほかの国が強くなることが、日本の球界のためになる。サッカーの本田圭佑はそれを分かっているんですよ。世界に普及しないと野球はダメになりますよ」

南アフリカ予選、アフリカ代表決定戦と突破すれば、欧州との最終決戦。狭き門だが、挑戦の軌跡は間違いなく野球振興につながっていく。【柏原誠】

◆ジンバブエ代表の状況 国際野球連盟のランキングでは昨年9月時点で75位タイ。五輪予選の参加は08年北京五輪以来(アフリカ4位)となる。アフリカ競技大会では99年、03年に3位に入った。東京五輪の出場枠は「6」。アフリカは9カ国が3地区に分かれて予備予選。ジンバブエは南部大会で強豪の南アフリカ、レソトと戦う。上位2チームが進む5月のアフリカ代表決定戦で優勝すれば、9月の欧州・アフリカ予選へ。ここで優勝すれば五輪出場が決定。2位なら来年3月、台湾で行われる世界最終予選に回る。

◆堤尚彦(つつみ・なおひこ)1971年(昭46)7月26日、兵庫県生まれ。都立千歳(現都立芦花)から東北福祉大。青年海外協力隊、ガーナ代表コーチ、スポーツマネジメント会社勤務などを経て、06年からおかやま山陽の監督。17年夏、18年春に甲子園出場。